よろず夢置き場

□君しかいらない。
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泣きじゃくる桜子に、葵は戸惑いながらも頭を撫でた。
こんな風に、誰かに縋ってくる桜子なんて初めて見た。
いつも凛と強くて、綺麗な笑顔で全ての感情を押し込めていた。だから、桜子の本当の気持ちなんて解らなかった。

けど今なら、桜子の気持ちが解る気がする。

男鹿が倒れただけでこの慌てよう。きっと、葵が最初に感じた違和感は、気の所為じゃない。
男鹿に腕を捕まれた時、桜子は動揺していた。絶対に、気の所為じゃない。

「桜子、本当の事を話して…?」

「えっ…?」

顔を上げると、葵の真剣な目と視線が合った。
きっと葵は、二人の関係に疑問を持っている。それなのに、敢えて深くは聞いてこなかったんだ。


馬鹿だ…。
葵に、嘘なんて通用するはず初めから無かったのに…。


錯乱状態で、名前を叫んでいたと東条から聞いた。そして、どんな関係なのかも聞いて来た。けど、その時は答えなかった。

話すなら、まずは葵に話したかったから…。

葵から離れ、桜子は俯きながら静かに話し始めた。


「男鹿…。辰巳とは、小さい頃からの幼馴染みだったんです…」

「桜子とあいつが幼馴染み!!??だからあいつ、桜子を見て…」

「人違いなんかじゃないんです…。辰巳の言う通りです…」

本当の幼馴染み。
もう何年も会ってなかったけど、その事実は変わらない。

覚えていてくれて嬉しかった。
また会えて嬉しかった。


だけど、素直に喜べない。


「なら、どうしてはぐらかしたりしたの!?言ってくれなかったの?なんで、嘘なんて吐いたの?」


葵は、人生に光を与えてくれた。
ただ淋しくて悲しかった毎日に、希望をくれた。

大切な人。
それはずっと変わらない。


「葵姉さんの為か…?」

葵の背後にいる寧々に言われ、桜子は素直に頷いた。

「えっ!私の為!?」

「だって葵さん…あいつの事好きでしょう」

「はぁぁぁぁ!!??えっ…ちょっと待って!!」

顔を真っ赤に染めながら、慌てふためく葵。
葵が男鹿に惚れているのは、火を見るより明か。

男鹿の事を話す度に、頬を染めて、普通の女の子の表情になる。
そんな葵が、可愛くて桜子は頷きながらいつも話を聞いていた。

今更隠したって無駄。
誰よりも近くで葵を見てきたんだ。誰に惹かれているかなんて、すぐに解る。

「べ、べべつに私は…あんな奴…。えっ?だから話さなかったの?」

「話せないですよ…。尊敬している人と同じ人が好きなんて…。それに、私が辰巳を好きだって言ったら、葵さん絶対に自分から身引いていたでしょ?それが嫌だったんです…」

拳をぎゅっと握り締め、涙が我慢できなくて次々に溢れてくる。

葵は誰よりも優しい。
だからこそ、桜子の気持ちを知ったら自分の気持ちを殺して協力してくれるに決まってる。


でもそんなの、桜子が耐えられない。


何でもない風を装って、悲しい気持ちで協力してくれたって、何にも嬉しくなんてない。

葵も男鹿も好き。
だったら、男鹿が好きな葵の背中を押して上げたい。


けれどそんな事、葵は望んじゃいない。


「桜子…。あんた馬鹿でしょ?」

「へ?ぶっ!」

間抜け面で顔を上げたら、両手でバシッと顔を強く挟まれた。
ビンタをしようと考えたけれど、桜子の綺麗な顔に傷を付けたくはない。

訳が分からなくて、桜子は唖然としながら葵を見上げる。

「私からしたら、桜子が哀しげな表情を浮かべるも嫌なの!!気持ち隠して協力されても嬉しくない!!それに…」

「あっ!おいさ…」

桜子をぎゅっと抱き締める。
優しくて暖かい腕。出会った頃から、変わっていない。

「親友の恋なら、私はちゃんと応援するわよ…っ!幼馴染みで、昔から好きだったんでしょう。男鹿だって、桜子に惚れてる。両想いのあんた達の間に、入ろうなんて思わないわ…」

「葵さん…っ!」

葵の腕を掴み、再び涙を零す。
親友なんておこがましい。だけど嬉しくて、涙腺がゆるんだ。

ずっと憧れていた人。
ずっと好きだった人。
天秤に掛けても、重さは同じ。
選べる訳が無い。

親友が、自分に遠慮しているなんて我慢ならない。両想いなら尚更。
自分の出る幕じゃない恋に、出張ろうなんて思わない。

桜子の笑った顔が好き。
初めて会った時、桜子の笑顔が見てみたいと思った。どんなに綺麗なんだろうと…、想像した。そして、実際に笑った桜子はやっぱり綺麗で、一番笑顔が似合っていた。
そんな桜子の笑顔に、陰りなんて似合わない。いつだって桜子には、笑顔でいて欲しい。

遠慮なんて馬鹿げている。
それで振り向いてもらえたって、全然嬉しくない。


まぁ、振り向いてくれるなんて、絶対に有り得ない。
だから女として、潔く諦めるしかないんだ。
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