よろず夢置き場
□君しかいらない。
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「男鹿落ち着け!!」
「あぁ!?古市離せ!!」
「今追い掛けても状況は何にも変わらねぇ!!っていうか!盛大な告白し過ぎだろ!!ちょっと羨ましいぜ…」
「…アホだろ。アホ市キモ市」
あまりの古市のキモさに、男鹿は正気を取り戻した。そして、怒り狂った姫川に襲撃されて返り討ちにするんだ。
「俺の存在無視かよ!!」
* * *
逃げ出した桜子は、屋上にいた。
「辰巳の馬鹿…人の気も知らないで…」
未だに顔が赤い。
火照った顔を覚まそうと、まだ少し冷たい風を全身に浴びる。
人がこんなに気持ちを堪えているのに、男鹿は素知らぬ態度でズカズカと踏み込んでくる。元々そういう性格なのだから仕方ないけれど、正直隠し通せる自信が本当に無くなってきた。
いつか、気持ちを打ち明けてしまいそうで、桜子はどうしたらいいのか解らず、柵に手を掛けたままその場にしゃがみ込む。
「元気ねぇーな。どした?」
突然聞こえた聞き覚えのある声。
振り向くと、背後にはがたいのいい男が立っていた。しかも、何だかにやにやしながら。
「東条…」
そのにやけ顔が嫌になり、桜子は嫌そうに名前を呼んだ。
東邦神姫の一人で、今の石矢魔のトップ。唯一、男鹿よりも強い…かもしれない男。石矢魔のトップと言っても、喧嘩がものすごく強いだけ。本人に自覚はない。
バイトばかりに励んでいて、ろくに学校になんて来ない。
久し振りに見た東条に、桜子は立ち上がる。中学の時、年を誤魔化してバイトをしていた。その時に、東条も年を誤魔化して同じ店で働いていたのだ。
気さくに話し掛けてきてくれる。可愛いものが好きみたいで、桜子も「お前可愛いな」と言い頭を撫でられた。それから、懐かれてしまい今に至る。
そう言えば同じ学校だったんだ…と、今思い出した。
中学の頃から、東条は喧嘩が強かった。よくバイト中にも絡まれていた。そんな下らない喧嘩売られたって買う事ない。けど、東条はそれが出来ないらしい。
手当たり次第に喧嘩を買いまくり、すぐにバイトをクビに。
喧嘩好きという事もあるんだろう。けど、店側の迷惑も考えないで暴れるのはどうかと…。
血気盛んなお年頃。暴れずにはいられないのだ。
「悩み事なんて似合わねぇーなぁー」
「五月蝿い。あっても、絶対にあんたには相談しない!」
「ひでぇ…。心配してやってんのに」
「どの辺が?」
面白半分にしか聞こえない。
それが気に入らなくて、東条に噛み付く。
軽く睨むと、東条はわざとらしく「怖いねぇ」と馬鹿にした様に呟く。
「けど久し振りだなぁ。高校入ってから、全然会わなかったからよぉ」
「あんたは相変わらずみたいね」
「おぉ!一年に強い奴がいるからっつーからよぉ、今から楽しみで仕方ねぇんだ」
「だからそんなにニヤニヤしてんのね。気持ち悪いわよ」
「仕方ねぇーだろ!喧嘩好きのお前ならわかんだろ!ワクワクする気持ちがよぉ」
「別に私は、喧嘩好きな訳じゃないわよ」
好きで喧嘩していた訳じゃない。
ただ、辰巳と一緒にいるのが好きだったから。辰巳と一緒にする喧嘩が好きだったんだ。
そして今は、楽しいと思える日常をくれた葵の為に喧嘩をする。
自分の欲望を満たす為の喧嘩は、本来ならあまり好きじゃない。
「あぁ?そうなのか?」
「そうよ」
桜子は強い。だからてっきり、自分と同じかと勘違いしていた。
ならば、この気持ちは分からないだろうな。
「まぁいいや。とにかく、俺の楽しみは変わんねぇんだからよ。男鹿って奴、どこにいんだ」
「男鹿…?あんたまさか!!」
一番聞き慣れた言葉に、桜子は思わず反応してしまった。
よく考えれば解る事。
東条は、喧嘩の強い奴が好き。
向こうが興味無くても、東条なら絶対に強ければ興味を持つ。それに、男鹿だって、強い奴とは戦ってみたいだろう。
一年で強い奴なんて、男鹿以外考えられない。
そして多分、いやきっと、東条は男鹿よりも強い。二人を、あまり会わせたくない。
「一年の男鹿辰巳。俺の知らない間に、神崎と姫川、邦枝もやられたらしいじゃねぇーか」
「葵さんは違う意味でやられたんだよ」
「どういう意味だ?」
相変わらず鈍い。けどこいつは、恋沙汰なんて興味持たないだろう。喧嘩にしか興味無い。
「男鹿なら、今日は来てないよ。私は見てない」
「そうか…」
つい嘘を吐いてしまった。
さっき会ったばかり。
男鹿は強い。
だけど、東条の方が強い。
信じてはいるけど、なるべくなら会わせたくない。
学校にいないと解れば、諦めて帰るだろう。
しかし、それが間違いだった。
「なら、たまにはあいつらに挨拶してくっかな。ついでに、誰か適当に喧嘩してくれる相手見付けてこよぉーっと」
「えっ!!??ちょっ!ちょっと待って!!!」
ヤバイ。かなりヤバイ。これは本当にヤバイ!マジヤバイ!!
校内を歩けば、男鹿と会ってしまう可能性が高くなる。
そうしたら、嘘を吐いた理由を問い質される。それに、東条と男鹿の喧嘩なんて見たくない。