よろず夢置き場
□君しかいらない。
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* * *
「なぁ古市君」
「何だね男鹿君」
「あれどう思う?」
目の前の光景に、ただただ感嘆するばかり。
かなり意外な展開。まさかの桜子と同じクラスとは。
目の前には、笑顔で同じメンバーと話をしている桜子の姿。
笑顔の桜子に、古市はすっかり骨抜きにされた様子。
「どう思うって…モノにしたい!!」
「だよなぁ…。って!そうじゃねぇーよ!!っていうか桜子はてめぇなんかにゃ渡さねぇーよ!!」
古市を殴り、宣戦布告。
何があっても桜子をキモ市にやるなんて出来ない。
指一本だって触れさせない。勿論、髪の毛一本も渡さない。
「相変わらずだな…。桜子ちゃんに対する執着心。んで?お前は何が聞きたいんだ?」
少し悩む男鹿。
自分の記憶に間違いはない。間違いはないが、あれ程冷たく否定されたら、不安にもなってくる。
痒くもない頭を掻き、桜子を視界に収めると、男鹿は口を開く。
「あれ、本当に桜子だよな…?」
ん?
んな事…。
「はぁ!!??あの犯罪的可愛さの容姿は桜子ちゃんしかいねぇーだろ!!」
あの綺麗で可愛い容姿は、桜子以外考えられない。
他に、あんな可愛くて可憐で綺麗で可愛い容姿を持つ人なんて、この世には存在しない!
「そうだよなぁ…。俺が間違える訳ねぇ」
「何?それがどうかしたのかよ」
「いや…さっき桜子に話し掛けたら、お前なんか知らねぇって言われた」
「はぁぁ!?あんなに仲良かったじゃねぇーか!!」
男鹿と桜子が、仲が良かったのは知っている。いつも一緒にいたし、覚えていないはずがない。
男鹿とは小学生からの付き合いだし、古市は誰よりも近くで二人の仲を見てきた。
そして、桜子の可愛さも。
男鹿の桜子に対する気持ちも。
仲が良かった男鹿を覚えていないなら、絶対自分は桜子の記憶から消されているんだろうな…。
「桜子に間違いねぇんだけどなぁ…」
知らないと言われたのが、かなり堪えた様子。桜子をじぃーっと見つめ、よく観察する。
あの可愛い笑顔は桜子しか有り得ない。ずっと会いたくて仕方なかった。引っ越してからも、気持ちは変わらなくて、ずっと桜子だけを想ってきた。
喧嘩が強くなったのは、泣き虫な桜子を守る為。
喧嘩が楽しくなったのは、桜子と一緒に戦える様になったから。
だから、喧嘩を続けていれば桜子にまた会える。そんな事を考えながら、売られた喧嘩は片っ端から買ってきた。
そして、やっと会えたと思ったら惚れている相手は自分を覚えていないと来た。
さすがのアバレオーガが、落ち込むのも無理はない。冷酷な男鹿が、桜子にだけは優しく出来た。
それは男鹿の世界が、桜子を中心に回っていたから。
いなくなって初めて、自分には喧嘩以外何も残らないのだと知った。そして虚しくなった。
桜子がいなくなって、誰を守ればいい?どうしたらいい?
空っぽなまま河原で寝ていたら、不良に絡まれた。そして、ベル坊に出会ったのだ。
大人しく背中にくっつき、ベル坊は上機嫌に歌を歌っている。
そんなベル坊に敢えて構わず、再び桜子に視線を向けた。
あの笑顔。
あの鋭い視線。
どこをどうとっても桜子以外有り得ない。桜子を見ながら悩んでいると、廊下に不吉な不良の影を見つけた。
「ん?」
誰だか解らなくて、きょとんとしながら視線をあげる。
「へぇ、あいつがそうか」
「確かに可愛いよな」
男鹿の視界にひょこっと姿を見せたのは、姫川と神崎。
どうやら、桜子の事を嗅ぎつけてわざわざ見に来たご様子。
二人だと気付いて男鹿の目付きが、余計鋭くなる。
「暇人だな…あの二人」
学年を重んじる不良が、下の学年の教室に出向くなんて、余程暇なのか、気になっていても立ってもいられないかのどちらかだ。まぁ、二人の場合両方なのと、後は馬鹿だからと言う理由も付くのだろうな。
「おい、そこの嬢ちゃん」
「…何?」
神崎に話し掛けられ、桜子は警戒しながら振り向く。
にやけ顔の二人が気持ち悪い。
石矢魔の東邦神姫に、葵が入っているのは知っている。だけど、他の奴等なんて知らない。興味もない。クラス内が、騒然となる。
「神崎さんと姫川さんだ…」そんな呟きが聞こえてきて、桜子はこの気持ち悪い二人が東邦神姫だと知った。男鹿に負けた二人。
(見るからに弱そうじゃない)
男鹿が勝つのは当たり前。
引っ越してからも、男鹿が「アバレオーガ」と呼ばれて恐れられていた事は風の噂で耳にしていたし、一緒に喧嘩していたからこそ、その強さも身に染みて知っている。この学校に、男鹿より強い奴なんているのだろうか。
いや、一人いるか…。
無類の喧嘩好きの馬鹿が。
考え事をしていた桜子に、先に話し掛けたのは神崎。相変わらずにやけ顔が気持ち悪い。
「お前さんだろう。入学したけど一度も来てない石矢魔の姫っつーのは」
「姫!!??石矢魔の姫!!??」
反応したのは勿論古市。
そういう話に真っ先に乗るのは、いつでも男鹿ではなくて古市。
「入学式の日に、敵に呼び出されてぼこられたっつー話だったよなぁ」
自慢のリーゼントを揺らしながら、姫川が話し掛ける。
変わらず警戒心は解かない。何をしてくるか解らない二人に、常に構えを見せる桜子。