おはなし

□不器用な黒猫
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「高杉・・・貴様、好きな女子などおらんのか」

ここは過激派攘夷浪士である俺、高杉晋助率いる鬼兵隊の船の中。

俺のかつての戦友、ヅラ・・・じゃない、桂小太郎はそんなことをたずねやがった。

「いねェ・・・っつか・・・なんでテメェがこんなところにいやがる。どっから入ってきた」

俺のツッコミを無視し、桂は続ける。

「・・・はぁ・・・だから貴様はそんな女趣味の着物着て誰とも口がきけないのよっ」

・・・鬱陶しい・・・。

「お母さんか・・っつかテメェ俺ァ今ここでやりあっても構わないがなんやかんやでややこしいから今は止めとく」

一瞬桂に殺意を覚え抜刀しかけた俺は話の流れを考え刀を納めた。

「とにかく・・・だ。せめて仲間を頼ることだ高杉。お前の考えは身勝手すぎる。
そこのところをよく自分で考えることだ。じゃあな」

そう言い残し桂は窓から「とうっ」という言葉とともに飛び降りた。
後から聞こえた「ドボンッ」という音はもちろん無視の方向で。

「好きな女なんかいねェよ・・・女はな・・・」



「晋助、今帰ったでござる」

深夜0時過ぎ、奴は帰ってきた。
-----俺が密かに想いを寄せている人物。

「万斉か・・ご苦労。休んでいいぞ」

三味線を弾いていた俺は奴の顔を見ずそう告げたが、本当は顔を見て飛びつきたい程。

でも素直になれず空回りばかり。

「では・・・」

と、万斉が行ってしまいそうな雰囲気だった。

やだ・・・いかないで。

そんな言葉さえも俺のプライドが許さない。俺が幸せになるなんて、万斉を好きになるなんて・・・無理な話なんだ。

「拙者も失礼して、ご一緒させていただこうか」

どっこいしょ、とその場に腰をおろし、背負っていた三味線を弾きだした。俺は内心びっくりしていた。

「気が散る。失せろ」

またプライドが邪魔をしてこんな言葉しか出てこない。ダメだ・・・絶対どっか行く・・・

「晋助の三味線に合わせて弾くのが、密かな楽しみ故・・」

それだけは、と再び三味線に集中しだした。

・・・こいつァ・・・正直今まで会ってきた誰よりもおっかねェ奴かもしれない。

「・・・勝手にしな」
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