珠玉の小箱
□無秩序なベクトル
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舞那は危険な状態は脱して一般病棟に移ったけど退院の目処は立っていない。
舞那……今、幸せ?
彼がいつも側にいてくれて、いつも優しく見守っていてくれるけど…。
蛭魔といた時よりも幸せなの?
舞那は蛭魔の為を思って身を引いただけなんでしょう?
本当にそれでいいの?
それで………本当に蛭魔が幸せになれると思ってるの?
蛭魔は今でも貴女だけを思い続けてるのに…。
見舞いの花を生けながら、舞那から目をそらして考え込んでいたら声をかけられた。
「美紀、ねぇ美紀ったら、どうしたの?さっきから呼んでるのに!」
「あ、ごめん。なあに?」
「あのね、私達正式に婚約したの。…ていうか、入籍することにしたのよ。」
えっ…?
「式は今度私が退院してからになるけど、婚姻届けの証人の欄には美紀にもサインして欲しいの。」
そう言って舞那は1枚の紙とペンを差し出した。
「入籍…?婚姻届けって…………待って!舞那!なんでそんな急に!
蛭魔はどうするの?」
「美紀……私だって妖一が嫌いになって別れたわけじゃないわ。
でも、それは妖一のためとかじゃないの。
私ね、妖一と一緒にいたら幸せじゃないの。
いつも自分に引け目を感じて、妖一に気を使わせて、私も妖一に気を使って。
そういうのに疲れたから別れたの。
私はなんのわだかまりもなく幸せになりたいの。だから彼と結婚するのよ。」
「そんな……………蛭魔は舞那がいてくれたらそれだけで十分なのに!
なんでそれじゃいけないの?
ずっと舞那だけを思い続けてる蛭魔はどうなるの?」
「美紀、私と妖一は2年前に別れたのよ。美紀が立ち止まっててどうするの?この2年間隣で妖一を支えてきたのはあなたじゃない…。」
「だったら!!」
「えっ…?」
私の大声に一瞬怯えたような舞那の顔を見たら何にも言えなくなってしまった。