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押し込めたのはxxxxx
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「…………こんな時間に、一体何の用だい?」

「何を今更」


余裕ぶる自分の、更に上をいくこの男。女性経験の豊富さが伺える(チリッと、それすらも何かが押し寄せる)

明りをつけたまま、まどろんでいるとノックもせずに堂々と玄関を開けるその図々しい音で目覚めた

たっだいま〜、とまるで我が家のような振る舞いでへらへらと笑っているのはいつもの事(『いつ』からこれが『いつも』になってしまったんだろう?)

気がつけば背後からそっと抱きしめられているこの状況、その手を振り払わず しいなは鼻で嘲笑する(それがせめてもの強がりだと言わせて)



「今日はどこの女と会ってきたんだい?香水、アンタのじゃないだろ」

「それは言えないな〜、金髪美人のサラサラヘアーのお姉さまってことくらいしか」

「あ〜はいはいはい。わかったわかった」



強がり、と同時に諦めと落胆

いつものことだ、そう 彼にとっては何の変哲もないこと

朝起きて朝食を食べて歯磨きをして洗濯をして今日も頑張ろうって外に出るのと同じ、日常

数えきれない、名前も覚えきれない程の女性ととっかえひっかえ、週ごと、日ごと、時間ごと 

その美貌と地位と権力を振りかざし女遊びに明け暮れているのはもはやテセアラ公認の事実なのだ

だから自分と会う数時間前に、彼がどんな女性とどんな会話をしてどんな風に過ごしたなどと 一々考えても意味がない(気に病む必要すら全くない)




「何だよヤキモチかよ〜、可愛いところあるじゃん、しいな」

「あたしがヤキモチやくのがそんなにおかしいのかい?」

「おっ……図星?今日はやたら素直じゃないの、かーわいい〜」



その言葉がただの調子に乗ったノリの言葉で、別に彼の本心ではないことなど充分理解しているつもりだ

………つもり、なのだが

そんな言葉に心臓は騒がしく音を鳴らすし、頬から、顔から 全身へと熱がめぐってしまう(何て単純で浅ましい)

ほら、こっち向けよって耳元で囁かれたらもう駄目だ ゲームオーバー コンティニューしてまたやり直し(何度だって堕ちていけるんだ)



振り返る、視線が絡む 無言の会話(その視線からアイラブユーが聞こえたなんて妄想にしかすぎないのに)

ゆっくりと瞳を閉じる、気配で察するあと4センチ(カウントダウンはもう始まっている)



そしたらもう堕ちていくだけ

何も考えずに 何も考えられずに



最初のキッカケは公の場でのパーティーのその後で 慣れないアルコールに足取りのおぼつかない手を引かれ、連れられた先の彼の部屋で。

顔を合わせば軽口を叩いて、何だかんだで相手をそっと気遣って励まして そんな関係で居続けるのだと思っていたのに(偶然なの?必然なの?)

ふかふかの大きなサイズのベッドと、薄明かりの照明と、ほんのりとアルコールに惑わされたかのように色気の浮かぶその表情

受け入れたのか、拒絶できなかったのか そんな昔の出来事の心情なんて 今はもうわからないけれど(わかったところでどうしようもないけれど)

あれから流されるように、何度も太陽と月が巡って月日は経ったけれど 一度崩れた関係から、修復も破壊もできず そのままで

「すき」だとか「あいしてる」だとか、そんな浮ついた台詞は一言も漏らさず、だけどその指や彼の表情に 律動に(愛を)感じるなんて、愚かなだけなの?



「他のこと考えてんの?」

「………そう、見えるのかい?」

「俺のことだけ黙ってみてろよ」



胸倉掴まれて引き寄せられて、そのまま畳に背を押しつけられる(乱暴にみえて痛くないところに優しさを感じるなんて哀れなだけなの?)

チカチカする電球に目が眩む(本当は君の鋭い瞳に眩んでいるの?)

薄く開いた瞳を閉じる(涙が溢れたのは、どうして?)



終わりの見えない、希望の見えない ただの愛人の一人になり下がって

気を揉んでは無駄だと嘲笑して、でもまた夜になれば玄関から目が離せなくなる(そんな毎日を繰り返すことに何の意味があるのだろう?)

そんな繰り返し、そんな事が日常と化していつの間にかこんなどうしようもないやつに依存している







(ゼロス)








あんたは違うだろうけれど、きっとそんなこと思ってもないだろうけれど

その気持ちを返してくれなくても ただのあたしの気の迷いでも 一方通行でも構わないんだけど










(あたしはあんたを、)









ねえ、でもそんなこと 言ったらあんたはどうせ またいつもの冗談だろってポーズでさらりと流すんだろうね















end











→ゼロスside.





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