TOD2

ナミダのRaindrops
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「いい加減にしろ、ハロルド」


それから数分か、はたまた数十分か
雨は激しさを増しているのにハロルドはぴくりとも動かずにただ背を向けて座っていた


それを見守るジューダスの服も雨に濡れて肌に張りついて気持ち悪かった



「あんたが解剖させてくれるって言うなら宿屋に帰ってあげる」

「ふざけるのも大概にしろ」

「あら、大真面目なんだけど」

「………」


ぱしゃりと水溜まりを蹴飛ばすような音をたててついに痺れを切らせたのかジューダスが遠ざかる足音が聞こえた


本当に置いていかれたのだな、と考えながらハロルドはぼんやりと瞳を閉じた







『ハロルド』


自分の名を呼ぶ優しい声に視界がまたぼやけた
鼻の奥が痛くて、また涙が溢れる
自分らしくもない、感傷的に感情的になるだなんてと自嘲めいた笑いを浮かべては、ため息



兄が死ぬ事はすでに決まっていた、それは未来から来たカイル達が周知だった事から理解できる
それを知って兄の命を救うつもりはなかった、そうして時代を改変して忌々しき神と同等の事をするつもりはなかった


なかったが、そう簡単にもわりきれなかった


人が死ぬ事は理解していた
呼吸が停止し、心臓が停止すれば人は死ぬ



だけど、目の前で最後まで自分の名前を呼びながらたどたどしい口振りで言葉を紡ぎながら自分に話し掛け続けた自分の大切な兄


誰もが理解してくれない自分の研究を、兄だけは認めて誉めてくれた

自分に害を為すものが表れれば制裁をし、守ってくれた



温和な兄は、自分と一心同体だと言ってくれた


だけど、死んだ
死んだのだ


受けきれない事実に、ふと落ち着いた時間ができると兄の事で頭が溢れてしまう


兄の笑顔や怒った声、二卵性双生児の、片割れが、



そんな事をして、兄を思い返して兄が生き返るわけでもなければ集中力は低下するし研究にも身が入らないしで百害あって一利もない


帰らなければ、立ち上がって仲間が待つ宿屋に帰らなければ



思えば思うほど、体は動かなくてただ雨に濡らされていく



ふわふわの猫っ毛が雨で首元にじったりと張りつく



耳元にはただ、大雨が地に降るざあざあという音だけが聞こえた


薄暗い場所で、一人 雨に打たれながら



ハロルドは蹲ったまま、ため息を吐いた




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