Main Dream
□眠り姫は目覚める
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君は、僕を知っているだろうか。
ギィ・・・
鈍く軋んだ扉の外には、見慣れたコンクリートと空がある。
穏やかな日差しの注ぐ屋上に足を踏み出して、雲雀は辺りを見回した。
「・・・いた。」
ポツリと呟くと、慎重な足取りで”それ”に近づく。
フェンスの近くで体を丸めて眠る少女。セミロングの黒髪は寝乱れてその顔の半分を覆ってしまっていた。
気配を消してその隣に座ると、そっと髪を払ってやって、雲雀は持ってきた本を開いた。
彼女は2−Aの変人として有名な、天才と称される少女だ。
毎週火曜日の5時間目だけここに来て、フェンスの近くで眠っている。
何故彼女を殺す気にならないのか、雲雀は我ながら不思議だった。
ザァァ・・・
木々を揺らす風が、雲雀と少女を駆け抜けていく。ページがはためくのを押さえつつ本を繰っていた雲雀は、少女が寒そうに更に体を縮こめるのを横目で見た。ちょっと考えると、羽織っていた学ランを体に掛けてやる。
「スケート丈、短すぎ。」
聞こえていないと分かりつつ文句を言う雲雀の顔は、口調とは裏腹に機嫌が良さそうに見えた。
いつも彼女が目覚める前に立ち去ることにしていた雲雀は、授業終了10分前に立ち上がる。
学ランを取りかけて、少女のあどけない寝顔にそれを思いとどまると、雲雀はスッと屈み込んだ。
「・・・またね。」
自分のことを知らない少女に小さく笑うと、彼はそのままその場を後にした。
次の日、学校に来た雲雀が応接室で目にしたものは、デスクの上に置かれた学ランと1枚のメモ。
『ありがとう。』
「・・・直接、返しに来なよ。」
Yシャツの上に無造作に学ランを羽織ると、雲雀はすぐに2−Aに向かった。
今度は聞こえるように文句を言うために。
眠り姫は目覚める
(ねぇ、君は何を思ってるの?)
〈FIN〉
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