Main Dream


□響きすら愛しい君の名前
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丁度良い機会なのでここで否定しておくが、俺は断じて二股はかけたことがない。と、いうかかけようがない。何せ二股というのは俺が相手に惚れないと成立しないわけで、しかもその場合元々付き合っている相手とも関係を続けたいという実に身勝手な欲求が必要となる。さて、そうなると生まれてこのかた人を好きになったことがないこの俺が二股をかけるというのは不可能なことですね。まる。と言ったら、何故か丸井にど突かれた。「…何をする。」「うるせぇ!俺の数倍女子と付き合ってるのは本当だろぃ!」だから何だ。というか、さっきから言っているはずなのだが、俺は女に惚れたことはない。「じゃあ男にはあるんすか?」「死ね。」とりあえず赤也にはプリッツを投げつけておいて、俺は当初の問題に立ち戻った。そう、それは俺が今現在直面しているかなり致命的な事象である。この俺、仁王雅治が1人の少女に惚れているという、決定的に壊滅的な問題だ。「と、いう訳で俺はどうすれば良いと思う、相棒?」「どうも出来ないでしょう。あなたがようやく人間になったというだけですよ。」「いや、その台詞を爽やかな笑顔で言われても怖いだけなんじゃが。」畜生この似非紳士め。じゃあ俺は今まで何だったんだ、爬虫類か、昆虫か?「「悪魔。」」「黙れ。」馬鹿2人に今度は500mlペットボトルを投げつけて、俺はさっきから黙りこくっている部長と参謀に目をやった。…部長は顔を俯け肩を震わせ、参謀は何かをノートに書いていた。お前そろそろそれは犯罪じゃないのか。何をメモするところがあったんだよ今の場面に。「お前では分からない何かだ。」「黙れストーカー。」胸を張って言うことではない。

さて、では俺はこれからどうしようか。あぁ今なら告白に来る女子の気持ちが理解できる。望みもないのに万が一の奇跡にかけてやってくる女達。ぶっちゃけ告白されるまで存在すら知らなかった奴が多数だったりしたが、相手は俺を知っているわけであれはなかなか気持ち悪いものだ。1人2人なら我慢もできるが、バレンタインは恐怖の対象になる。実はあの勢いづいた雌の群れが嫌で学校を休んでいるなんてことはテニス部しか知らない。何考えてるんだ俺。あれか、告白する気なのか?少なくともあっちが俺を知らないということはないが(何せ隣だし。)、委員会も同じだが(これは全くの偶然だ。)、体育祭の二人三脚ではペアを組んだが(これはかなり細工をした)、あっちが俺をどう思っているのかというと、俺的予想ではお友達。告白してもやんわりと断られるだろう。そうなったら関係は修復不可能になる。それは絶対に嫌だ。「…俺っていつからこういうキャラになったんかの…」「彼女に惚れた時ではないですか?」「あー…」こうなったらもう当たって砕けろだ。いやいやいや、砕けちゃダメだ。落ち着け俺。テンパるな俺。「…ね、仁王。」「何?」呼ばれて顔を上げれば何とも素敵な笑顔の我等が部長。「うじうじしてても仕様がないしさ、彼女、呼んだから。頑張って砕けてね。」「…は?」「だから、呼んだから。俺達は生温かく見守ってるよ。」ニッコリ。これに逆らえる部員はいない。完璧にフリーズした俺を置いて出て行ったレギュラーに今回ばかりは本気でキレようかと立ち上がった俺の目の前で、「こんにちは。呼んだ?仁王君。」いきなり開いたドアから顔を覗かせた愛しい少女。心臓が止まりかける程驚いて、反射で出てきたのは

響きすら愛しい君の名前

(好き過ぎてテンパるってどれだけ重傷なんだ俺!)

〈FIN〉









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