Main Dream
□桜色の夢
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これは、日番谷冬獅郎が出会った、もう1人の死神代行の話。
日番谷は、連日花見だ酒だと騒いでいる副隊長を置いて流魂街まで足を延ばしていた。北の一地区にある桜並木をのんびりと歩く。
「そろそろ散ってくるか…」
ポツリと呟いて、日番谷は桜を見上げる。盛大に散る花々は、雪のように美しかった。
しばらく見上げていた日番谷は、視線を感じて後ろを振り返る。1人の少女が立っていた。
「…何だ。」
低い声を出すが、少女は臆した様子もなく静かに口端を吊り上げる。妖艶にすら見えるその表情に、日番谷は思わず体を固くする。
まるで蛇に睨まれた蛙。動くことすらままならない程の鬼気。
こんな奴がどうして一地区に…?
反射的に刀に手をかけた日番谷は、少女が桜を指すのを見てつられて視線を上げた。
「…桜が咲き乱れる年は凶事が起きる。気をつけるといい、小さな隊長さん…」
小さな、という言葉に反応した日番谷が顔を戻した時にはもう、少女の姿は跡形もなくなっていた。
「何だったんだ…?」
夢ではないかと思う反面、体に巣くう恐怖心は本物で、日番谷は複雑な顔で胸元に手を当てる。
結局誰にもこのことは話していないが、日番谷は少女の言葉を片時も忘れることはなかった。
旅禍が瀞霊廷内に侵入してきた日の夜、日番谷は自室の外に立つ見覚えのある少女にハッと表情を強ばらせた。
「お前は…」
「初めまして、小さな隊長さん。言っただろう?凶事が起きると。」
皮肉な笑みを浮かべる少女をジッと見て、日番谷は静かに訊く。
「旅禍の1人か。」
「さぁ?意外と隊員かもな。」
はぐらかすような返答に、日番谷は背中の刀を引き抜く。
斬魄刀解放に伴う凍てつく寒気のような霊力が辺りに広がる。それでも少女はのんびりと立ち続ける。
「…抜かないのか。」
「抜いたら戦うしかないからなぁ。流石にそれは気が引けるんだよ…強い相手はあいつに残しといてやりたいし。」
少女は小さく笑って背を向ける。背中に斬りかかる訳にもいかず日番谷が困惑していると、少女は顔だけ振り向いて言った。
「敵は、意外とすぐ側にいるかもしれないぞ?」
何のことだ、と聞き返すより早く、少女は瞬歩でいなくなってしまった。
「敵は、側にいる…?」
誰だ。旅禍のことか。何となく、それとはニュアンスが違う気がした。
『敵』
また誰にも言うことはないまま、日番谷はそれとなく周囲の人間に対する観察の目を厳しくしたのだった。
桜の下で出会った、1人の死神と少女。彼等はこの後、藍然が逃亡する双極の丘で初めてキチンと対面することになる。
〈FIN〉
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