Main Dream


□花吹雪
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地面に着くまでの桜は綺麗だと思う。

ひらひらと舞って、舞って。大量に散るそれを花吹雪と呼ぶのを知ったのはいつの頃だろう。

花も、雪も、地に落ちるまでの美しさは本当に

「別世界だよね、文字通り。」

知らない声がして振り向けば、黒髪をポニーテールに結い上げた少女の姿。

「・・・あんた、怪しい3年生。」

「あら、知ってた?やったわね私、有名人。」

朗らかに肯定する少女は確かに怪しい。リョーマは帽子のつばを下げて表情を隠した。

少女はそれに構うことなく近づいてくる。

「今日も吹雪いて、この分じゃ直ぐに散り尽くすかな。・・・ね、少年。」

「少年じゃない。」

「そうね、越前リョーマ君。」

は、と顔を上げると少女はにやりと笑う。知ってるよ、と唇が動いた。

「君は一部ではとても有名。」

「・・・ふーん。」

「嬉しくないの?」

「別に。」

冷たく返すが少女の口調は変わらない。

「まぁ私もそんなことはどうでもいいのよ。」

「なら聞かないでよ。」

「問題ないでしょ?それでね少年。」

少年じゃない、と目で反論するリョーマに方眉を上げて応じて少女は続ける。

「桜はどうして散るんだと思う?」

「・・・どうして?」

「そう、どうして。だってこんなにキレイなのにもったいないと思わない?」

もっと咲けばいいのに。

少女の言葉に釣られるように顔を上げれば、視界を埋めるほどの桜。

濃密に、まるで散るために咲いたかのように。

「ね、少年。」

唄うように少女の言葉が聞こえてくる。

「君はどうして咲くのかな?」

桜に紛れて、ひどく重い問いが聞こえた。

「君はどうしてそんなに必死なのかな?」

「・・・負けたく、ないから。」

「そっか。ならさ、少年。」

一際強く風が吹く。その風に乗って楽しそうな声が響いた。

「待ってるよ。」

ゆっくりと目を開けると、少女の姿はもう校舎に吸い込まれて消えていた。

桜が見せた幻のように。

「・・・何なの、一体。」

待ってるよと言った声が

「少年じゃないって言ってるのにさ。」

耳にこびりついて消えなかった。




テニスコートで再会した少女は笑って言った。

「待ってたよ少年。」

「・・・少年じゃ、ない。」

<FIN>









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