Main Dream
□その、隣に、必ず
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彼女の香りは、澄んだ湖のそれだ。
にごりなどない、水底まで澄んだ湖。ほっと心が和む雰囲気といい、彼女はどうしてここまで優しいのだろう。
無条件で心を投げ出してしまえるほどに、彼女は優しい。
もたせかけていた肩から頭を離して、空目は少女に目を向けた。
「・・・疲れないか?」
「別に?平気だよ、恭一。」
どうしたの、と笑みを含んだ声音に問われて、空目はス、と目を落とす。
自分はやがて異界に呑まれるだろう。その未来はきっと、あまり遠くなくて、そろそろ足音が聞こえてくる位近づいている。
そうなった時、彼女を捨てていけるだろうか。他の者ならいくらでも置いていける。でも、彼女は。
「・・・恭一。」
そんな空目の心配を見透かしたかのような声が振ってきた。
「最後に戻ってきてくれたら、それでいいよ。」
「・・・だが、戻ってこれるとは限らないだろう・・・」
呟くような声に当たり前な口調で少女は言う。
「大丈夫だよ、恭一なら。」
大丈夫だよ。たった一言が心に太陽をくれる。
空目は小さく微笑んだ。
こんなにも、暖かい。
たとえどんなに異界を望んでも、ここにもまた大切なものが確かにあるのだ。
「・・・戻る、必ず。」
空目の言葉に、少女は静かに頷いた。
<FIN>
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