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□夜桜艶舞
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夜桜見物と銘打たれた宴会。
蓋を開ければ、そこかしこで酔漢の怒号とも悲鳴ともつかぬ声が響き渡る、情緒もへったくれもないたんなる飲み会であった。
それでも大半が隊長・副隊長・上位席官で占められた宴にひとり見掛けぬ顔。
つい先日、十三番隊の席官になったばかりの若い男である。
彼の使命は、任務でこの宴に出席出来ぬふたりの三席の代わりに隊長の身をお守りする事。
ほぼ身内しかいない宴会で、身をお守りしなければならない状況というのはあまり想像もつかないが、彼はその言葉を真摯に受け止め、片時も浮竹の側を離れようとはしなかった。
ただし。彼はある失敗を招く。
それは自隊の隊長が、彼のような下位の席官にも心を砕く男であるという事と、男自身がそんな隊長に心酔しているという事であった。
「うきたけたいちょお〜」
先日出世したばかりの部下は、アルコールで顔を真っ赤に染め、浮竹にすりよってきた。
どうやら出世祝いだからと、酒を勧めすぎたらしい。
浮竹は苦笑しつつ、にじり寄ってくる部下の背を叩いてやった。
「すまんすまん、飲ませすぎたな」
呂律も怪しい部下に水を渡してやるも、当人は焦点も定まらない瞳で、じーっと浮竹を見ている。
「どうかしたか? 俺の顔に何かついてるか?」
尋ねれば、突然の重み。
部下はまるで母親に甘える子供のように、浮竹の首にぎゅっと抱き付いてきた。
「おいおい。本当に大丈夫か?」
やはりこちらも母親のように部下の背を撫でてやる浮竹の姿に、周りは微笑ましい視線を投げ掛けている。
たったひとりを除いて――
「たいちょ」
「ん? なん――」
それは酒臭いくちづけだった。
「……」
一瞬、辺りを沈黙が支配した。
だが浮竹は別段慌てたり、焦ったりする事もなく、部下の背を再び叩いてやると、その体をそっと押し返した。
「まったく、困った奴だな」
苦く…それでも怒ったり悲しんだりしていない……普段と変わらない浮竹の様子に、周囲は騒々しさを取り戻していく。
酔っ払いの奇行ごときで宴会を中断させる程、繊細な作りをしている者などいないのだ。
しかし。だからこそ皆気付かなかった。
いつの間にか、不自然ではない間を選び、消えたふたりの男がいる事に。
勿論、酔いで頭の回らなくなった男も、自隊の隊長がいなくなっている事に気付いてはいなかった。