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□禁断遊戯
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「失礼しまーす」
 カラリと扉が開き、保健室に入ってきたのはだらしなくネクタイをゆるめ、鼻先に眼鏡をひっかけた青年。
 この高校の三年生である京楽春水であった。
「どうした、京楽。どこか怪我でもしたか?」
 机に向かい、書類整理をしていた保健室の主・保健医の浮竹十四郎は、結い上げた髪を揺らしながら顔を上げ、そう問いかける。
「ううん。怪我はしてませんよ。ちなみに、他に具合悪いところもありません」
「じゃあ、またサボりか?」
 浮竹がちらりと壁に掛けられた時計を見ると、もうすぐ昼休みが終わろうとしていた。
「ま、そんなところです」
「お前は…」
 浮竹は大きく溜息をつく。
 ここは教師として、説教のひとつもしてやろうと思ったのだが、それより早く、京楽は机を挟んで浮竹の目の前に立っていた。
「きょうら……」
「ふたりっきりの時くらい、名前で呼んでよ」
 今までの、形ばかりとはいえ敬語だったそれとは打って変わり、くだけた口調でそう言い放つと、京楽は浮竹の髪を一房手にとり、そっとその絹糸のような白髪にくちづける。
 髪に神経があるわけでもないだろうに、浮竹は全身がカアッと熱くなるのを感じた。
「きょ、京楽!」
「だから、名前で呼んでってば」
 薄いレンズ越しの、深い茶色の瞳は楽しげに笑っている。
 自分よりいくつも年上の浮竹の反応を面白がっているようだ。
「……お前は」
「ふふふ。先生は可愛いですね」
 わざとらしく、また敬語を使う京楽に、浮竹は小さく溜息をつく。
「…わかった。ちゃんと名前で呼ぶから、敬語はやめろ」
 気持ち悪い。と言ってやれば、京楽は酷いなぁ。と大袈裟に肩を竦めた。
「それで、春水。今日は一体何しに来たんだ?」
 確かに京楽は保健室でサボる事も多いが、何だか今日はいつもと違うような気がする。
 そう思い、京楽を見上げれば、当の本人は浮竹の髪に指を絡めながら、にこりと笑った。
「そうそう、実は進級祝いもらおうと思ってさ」
「進級祝い? そんなもの用意してないぞ?」
 確かに進級はめでたい事だし、京楽とは恋人同士だが、さすがに誕生日やクリスマス以外にプレゼントは準備していない。
 そう正直に答えれば、京楽はわかってるよ。と言って、軽々と浮竹を姫抱きする。
「しゅ、春水?」
「準備はちゃんとボクがしておいたから大丈夫」
 ベッドへと運ばれていく浮竹は、その言葉にとてつもない不安を感じていた。


 
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