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□独占欲の法則
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「隊長、大変です!」
 ある夜の事。雨乾堂に駆け込んできた部下の報せは、先頃偵察のため現世に出立した隊員が全滅したというものだった。
 浮竹はその報告を受けてから一刻と間をおかず、自ら隊員を率いて、現世に向かった。



「虚の正確な数や位置はわからない。各班とも慎重にな」
 浮竹の忠告に皆は頷き、偵察隊が全滅した暗い森へと駆け入っていく。
「浮竹隊長、我々も」
「ああ」
 浮竹はひとつ頷き、夜の森へと足を踏み入れた。
 その時感じた寒気に、浮竹は小さく身震いし、何故か京楽の事を思い出した。
 この任務が終わったら、久方ぶりに自分から会いに行こう。
 そう思いながら、浮竹は森の奥深くへ進んでいった。



 浮竹と隊員数名は、真っ暗な森を駆けていた。
 先頭を走る浮竹が霊圧を探るも、虚の存在は不透明だ。
 霊圧を隠せる虚かと考え始めた頃、後ろの部下達に異常が現れた。
 皆、徐々にスピードが落ち、一番後ろを走っていた平隊員に至っては足を止めてしまった。
「みんな、どうし…」
 振り返った浮竹の視界に真っ白な霧のようなものが立ち込める。
 怪訝そうに顔をしかめた浮竹だったが、次の瞬間驚愕に目を見開き、部下に駆け寄ろうと走り出した。
「皆、逃げろっ!」
 だがすでにその言葉は遅く、隊員達は皆倒れ込む。
「くそっ」
 浮竹はその霧を吸い込まぬよう口許を押さえながら、隊員を抱き起こした。
「しっかりしろ!」
 隊員達は全員呼吸も脈拍も正常だが、焦点だけがあっていない。
 まるで起きたまま夢を見ているようだ。
「この霧のせいか…!」
 微かだが、辺りに充満する霧は霊力を帯びている。おそらくこの霧は虚の能力なのだろう。
「相手を無力化する霧か…」
 そう呟く浮竹の耳に飛び込んで来たのは、今ここにあってはならぬ声だった。
『それは違う。これは相手を無力化させるだけのものじゃない』
「!?」
 先程とは比にならない程の驚きが浮竹の身を襲う。
 霧の中から現れたのは、京楽春水だった。
『どうやらこの男が、お前の一番愛しい者らしいな』
 低く艶を感じさせる声。それは確かに京楽のものだが――
「虚か!」
 睨み付けると、その京楽はにやりと笑う。それは京楽が時たま見せる、意地の悪い笑みそのものだった。
『ご名答。私の能力は、こうやって相手が一等望む夢を見せる事だ』
「夢…だと?」
『そう。もっとも、現実の私を倒さぬ限り覚めぬ夢だがな』
 自分の能力に余程自信があるのか、京楽の姿をした虚は笑った。
『しかし、仮にも護廷の隊長の望みがこんなものとは』
 虚はのんびりとした足取りで浮竹に近付くと、その顎を無理やり上げさせた。
「ぐっ…!」
『逃げようとしても無駄だ。これは夢。私の創り出した世界だ』
 そう言うと、京楽の姿をした虚は動けない浮竹の唇に自分の唇を重ねた。


 
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