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□白い鳥は籠の中
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 季節の変わり目。毎度お馴染みとなった体調不良で療養中の浮竹の元に赴いた京楽は、休日だという事もあり、珍しく私物の着物を着ていた。
「具合はどうだい、浮竹?」
「もう大丈夫だ。卯ノ花に外出禁止令は出されてるがな」
 斜め読みしていた書物をぽいと放り出し、浮竹はギシギシうるさい体を捻った。
「うちの連中ときたら、俺より卯ノ花の方が怖いらしくてな。
 平気だと言ってるのに……」
 軟禁状態だ。と苦々しい様子の浮竹に、京楽はくすくす笑う。
「そりゃね。烈くんのあの笑顔に勝てる奴なんかいないさ」
 かく言う京楽も、健康診断の度、お酒は控えて下さい。と笑まれると、七緒に怒鳴られるより、背筋に冷たいものを感じてしまう。
 まあ、だからと言ってやめられた例はないのだけれど。
「いい加減根っこでも生えてきそうだ。窓の外の水鳥まで羨ましく思える」
「翼でも欲しいのかい?」
 尋ねれば、浮竹はああ。と頷いた。
「ふーん……翼ね。君なら白鳥かな?」
「何だそれ。見たまんまじゃないか」
 白髪色白を多少なりとも気にしてる浮竹は、微かに眉を顰める。
「じゃあナイチンゲールとか」
「どんな鳥なんだ?」
 そう言って首を傾げれば、京楽はにやにやと笑みを浮かべた。
「夜啼く鳥って書くんだよ。君の場合はボク専任だけどね」
「……」
 一瞬の間の後、ぱしんっと響く音。
「駄目だよ。病み上がりが暴れちゃ」
 本気で飛んで来た浮竹の拳を受け止め、京楽はやはり楽しげに笑った。
「……お前という奴は」
「本当の事じゃない」
「うるさい」
 不機嫌そうにそっぽを向いてしまった浮竹の頭をぽんぽん叩きながら、京楽はふと何か気付いたように微笑む。
「ねぇ、浮竹。ボクと逃げてみないかい?」
「逃げる?」
 その言葉に、浮竹は怒っていた事も忘れて首を傾げる。
「何から逃げるっていうんだ?」
「何でも。
 苦い薬を持ってくる烈くんからでもいいし。過保護な君の部下達からでもいい」
 逃げないかい。と、もう一度問われ、浮竹は唇に笑みを浮かべる。
 まるで学生時代にこっそり悪戯をしかけた時のような、小さな背徳感が心地よかった。



 一旦決まれば、浮竹と京楽の行動は早い。
 浮竹は滅多に袖を通さない私物の着物に腕を通し、京楽は器用にその恋人の髪を結い上げる。
「変装にもならないけど、まあしないよりいいでしょ」
 長い白髪を後頭部で器用に団子にし、京楽は自分の簪をさしてやって、にこりと笑う。
「器用だな、相変わらず」
「細やかな特技だよ」
 普段とは正反対に、浮竹は髪を結い、京楽は下ろしている。それだけでもだいぶ印象は違った。
「さてと。じゃあ行こうか」


 
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