春水くん×浮竹先生

□23(tue)
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「さあ、さっさと起きろ!」
「うぅ……」
 小さなベッドで、大きな体を丸めて眠る京楽。そんな京楽を怒鳴り付ける浮竹の手には雑巾と掃除機のホース。そして頭には三角巾、服にはエプロン。準備万端のようだ。
「起きろ! 起きて大掃除を手伝え!!」
 がしりと毛布をひっ掴み、力付くで引き剥がす。暖を奪われた京楽は足先を擦り合わせて、くしゅんとくしゃみをするのだった。



「まったく。先生ってば本当にマメなんだから」
 浮竹の命令で風呂釜を洗わされている京楽は、ぶちぶちと文句が絶えない。
 去年も一昨年もそうだったが、浮竹はきちんと大掃除をし、餅や注連縄など新年の準備をしないと、年を越せないらしい。それは浮竹自身の性格というより、そういう躾の賜物のようだ。定期的にハウスキーパーによって綺麗に保たれている京楽家では、まず有り得ない習慣である。
「でも何も、クリスマス前に大掃除する事ないよねぇ…」
 風呂にこびりついた水垢を擦りながらも、京楽のぼやきは止まらない。
「終わったか、春水?」
 ひょこりと浴室を覗き込んだ浮竹を振り返れば、その家主は雑巾とマジックリンを携えている。
「……次は何?」
「終わってからでいいぞ」
 そう言って、浮竹はそのふたつを床に置く。そして──
「次はトイレだ。で、それが終わったら洗面台と脱衣場。で、玄関とベランダが終われば、お前の担当は終了だ」
「……」
 鬼だ。とは流石に言えなかった。いくら狭いワンルームとはいえ、生真面目で休みの日さえ仕事をする事を欠かさない浮竹には、普段、掃除する時間も無いのだろう。
 そう自分を慰めてみても、やはり生来の怠惰な性格のせいか、やる気など出てこない。
 せめて、何かご褒美が欲しい所だが……
「はぁー」
 大きく溜め息をつき、京楽はよっこいしょ。とオヤジ臭く立ち上がる。
 縮こまっていた筋がキシキシとうるさい。大きく伸びをしてから、浴室を出た。
 するとキッチンでコンロの油汚れを落とす浮竹の背中が見えた。狭いこの家では、大抵どこからでも浮竹の姿を見る事が出来る。
 去年のクリスマスに贈ったフリフリエプロンを身に付けた浮竹の背中が見えた。
「……」
 そこでふと思い付いた考えに、京楽は唇に笑みを浮かべる。
 自分の現金さに思わず声を出して笑ってしまう。
「……何笑ってるんだ?」
 京楽の笑い声に気が付き、浮竹は振り返った。
「何かこういうのって、夫婦みたいだなぁって」
「っ!」
 言葉を失って硬直する浮竹に、京楽はさらに声を上げて笑うのだった。



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