春水くん×浮竹先生

□20(sat)am
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 その日の朝。浮竹はいつもより少し遅めに目を覚ました。
 今日は土曜日で学校は休み。少しくらい寝坊したところで、別段問題は無い。
 だが、浮竹はふと何かを思い出して、体を起こした。
「電話、電話…」
 きょろきょろ辺りを見渡して、携帯電話を手に取る。アドレスに登録したその番号を見つけ出し、通話ボタンを押す。
 数回のコール音の後、聞こえてきたのは不機嫌そうな少年の声であった。
『何か用か?』
「誕生日おめでとう、冬獅郎」
『……』
 にこやかに言い放つ浮竹とは対称的に、甥っ子はやはり不機嫌にああ。とだけ返す。
「悪いな、冬獅郎。プレゼントやれなくて。年末に、実家に帰った時にでも……」
『いらねぇ。もうガキじゃねぇんだぞ』
 そうは言うものの、まだ十才にもならない甥は、浮竹からすれば子供以外の何者でもなくて、やはり誕生日にはケーキとプレゼントだろうと思ってしまう。
「じゃあ、お年玉を──」
『安月給が無理すんな』
「否定は出来ないが、やっぱりそれくらいしないと」
 伯父の威厳が無いじゃないかと。言えば、そんなもん端からねえ。と、厳しい言葉。
『とにかく。いい加減俺をガキ扱いするんじゃねえ』
「わかった。気を付ける」
 真摯に答えれば、電話の向こうでよし。と満足げな声。その表情を想像して、浮竹は声に出さずに笑う。きっと、いつもつりあげてる目尻を、少しだけ下げてくれているだろう。
 そう思うと何だか嬉しくて、声に出して笑ってしまった。
『何笑ってやがるんだ?』
「ははは。何でも無いさ」
 そう答えて、じゃあな。と、携帯電話を耳から離せば、甥子がちょっと待て。と叫ぶ。
「どうかしたのか、冬獅郎?」
『……一日、早えけどな』
 よく携帯電話が拾えたものだ。というくらい小さな声で聞こえてきたのは、可愛い甥からの、一日早い祝いの言葉であった。



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