BLEACH

□LOVE PRESENT*
1ページ/4ページ




 雨乾堂から、ドカッという何かを殴り付けたような音が響いたのは、七月が始まって間もなくの事であった。
「!!」
「〜〜」
 その刻その場に誰かいたなら、室内から響いてくる部屋の主の怒声と、その主の親友兼恋人の大層情けない声を聞く事が出来たであろう。
 幸か不幸か、その希少な場に遭遇した者はひとりとしていなかったが。



「京楽隊長。また浮竹隊長を怒らせたのですか?」
 伊勢七緒は、しょぼくれて帰ってきた上官の左頬に、くっきりと拳の痕が残されているのを発見して、内心大きな溜息をついた。
 あの穏和で知られた浮竹をここまで怒らせられる京楽に対し、若干の尊敬と巨大すぎる呆れを感じているからだ。
「んー。ちょっと冗談言ったら、殴られた」
「……何とおっしゃったのですか?」
 興味ではなく義理からそう尋ねる。
 はっきり言って、少しも聞きたくない。
「もうすぐ七月十一日じゃない?」
「何を当たり前の事をおっしゃっているんです」
「いや、だからさ。七月十一日ってボクの誕生日なんだよ」
「存じております」
 なんとなく先が予想ついた七緒は、眉間に皺を寄せる。
「それでさ。浮竹が、ボクに誕生日何が欲しいかって尋ねてきたんだよね」
「はあ…」
「だからボク言ったんだ」
「…………なんと、おっしゃったのですか」
「浮竹がいいな…って」
 それは冗談ではなく、本気だろう――。
 七緒は聞くんじゃなかった、と心の底から後悔した。



 京楽と浮竹の付き合いは長い。
 出会ってから千年以上。
 共に迎えた誕生日の八割は、夜を同じ床で過ごした。
 だがここ数十年は、その回数も減ってきている。
 年のせい……とは死んでも認めないが。まあ、単にふたりきりで情熱的に過ごすより、他の皆とドンチャン騒ぎするほうに楽しみを見出だしてきたのだろう。
 誕生日は、相手を独占したい。と言い放つ程、若くもないのだから、やはり年をとった証拠かもしれない。
 けれど、このままではいかんと、京楽は思ったのだった。
 生涯現役(色んな意味)でありたいと願う京楽としては、このまま好好爺なぞになってたまるかと、一念発起したのだが――結果は不発…どころか、返り討ちにあってしまったというわけだ。
「浮竹のいけず……」
 執務机でのの字を書く京楽を完全に無視して、七緒は溜まった書類を片付け始めるのだった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ