BLEACH

□眠れる花
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 静かに、ゆっくりと、目覚めの時を待ち焦がれている――





 眠れる花





「はあー」
 周りの人間も沈鬱にさせる溜息。
 わかっているが、止める事は出来ず…。
 京楽は愛飲しているいつもの酒を、苦薬でも飲み干すような表情で喉に流し込んだ。
 ここ最近、何を飲み食いしても、苦い味しかしない。
 その理由はわかっている。
『浮竹…か』
 あれからひと月。
 表面上ふたりの関係にさしたる変化はない。
 世間話をし、仕事が重なれば助け合い、互いの隊舎を訪れる事が以前より少なくなる事もなかった。
 だが、確かに浮竹は変わってしまった。いや、戻ってしまったと言ったほうが適切かもしれない。あの晩、あの時…すべてを忘れるまでの浮竹に戻ってしまった。
『何で話しちゃったんだろーねー…』
 何も教えるべきではなかったのだ。
 いつもみたいに笑って、お茶を濁して逃げてしまえば良かった。
 浮竹があんなにもしつこかったのは酔っていたからだ。平時の浮竹なら、他人の聞かれたくない事を、掘り下げようとはしない。そして自分も酔っていた。酔っていたから、逃げ口上を考える事すら面倒臭くて…。
 だが、京楽はそれが言い訳でしかないとわかっていた。
「はあ…」
 憎かったのだと思う。
 どんなに偽ろうと、京楽は浮竹がすべてを忘れてしまった事が恨めしかったのだ。
 彼に抱いていた友情を、汚した。浮竹自身がそれを望んでいたとしても、やはり簡単に納得は出来ない。
 だからやはり浮竹の言う通り、押し付けられたのだと思ったのかもしれない。
「はー」
「……三十回目ですね」
 ふと顔を上げると、七緒が眼鏡を押し上げながら、言った。
「何が三十回目なんだい。七緒ちゃん?」
 執務室で酒を飲んでいるのに怒られない事を疑問を感じつつ、そう尋ねてみる。
「今日一日の溜息の数です」
「…そんなにしてた?」
「ええ」
 時刻はまだ午前中。七緒と顔を合わせてたかが数時間。それで三十回は少々多すぎるか。
「身体の調子でも悪いのですか?」
「大丈夫だよ…」
 嘘くさいな。と思ったが、部下の女の子に相談するような類の話ではない。
「ちょっと出掛けてくるね」
「夕方までには帰って来て下さい」
 七緒が自分を心配してくれている事に気付きながらも、京楽はその呼び掛けに返事をしなかった。


 
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