春水くん×浮竹先生

□蕾、ほころぶ
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「先生」
 京楽はそれまでの子供っぽい笑顔を引っ込めて、真面目な顔を作ってみせた。
「京楽?」
「先生から見ればボクはうんと子供かもしれないけど……生徒のひとりとしてじゃなくて、ちゃんとボクの事、見てよ」
 浮竹の瞳が大きく見開かれる。
 その深緑を思わせる緑の眼に、自身の顔が写っているのを見ると……京楽は顔を反らした。
 らしくない表情をしている。いつも余裕で、作った笑みを浮かべている自分らしくない……頑固な子供の顔。
「…………」
 何をやってるんだ、自分は。
 京楽は椅子に深く沈み込み、大きく息を吐き出した。
 こんなの、自分らしくないにも程がある。
 たかが子供扱いされたくらいで、こんな風に苛つくなんて。



「……悪かった」
 ぼそりと浮竹の口からもれた呟きに、京楽は驚いた。
 半ば勢いだったし。浮竹から見れば自分が子供だという事もわかっていた。
 やんわりとたしなめられこそすれ、謝られるなんて思ってもいなかったのに。
「そういうつもりじゃなかったんだ。すまない」
「…………うん」
 真剣な表情。こちらが生徒で二十以上年下だというのに、浮竹は心の底から悪いと思って、頭を下げている。
 その事が妙にこそばゆいというか……浮竹に対し、温かな感情がわいてくる。

「……あのさ、先生。さっきの台詞は本気で言ったんだよ。
 本当に心からボクは、先生が魅力的な人だと思って、ああ言ったんだからね?」
 教師に対する媚びだとか、世辞じゃない。
 それは本心を他人にさらす事の少ない京楽が口にする、間違う事なき本音だ。
「ボクが女の子だったら、絶対先生の奥さん候補に名乗り上げてたよ」
「お前が、女の子……?」
 京楽のその姿を想像したのか、浮竹は数秒沈黙し……次の瞬間、ぶっ。と吹いた。
「笑わないでよ! こっちは真剣なのにっ」
「すっ、すまない。だが……っ」
 抑えようとしても抑えきれない笑いが、あふれて止まらない。
 そんな浮竹に、肩を怒らす京楽。
 和やかで、ふわふわと柔らかく、あたたかくて。
 教師と生徒の境界を越えたような、親しげなやり取りに、京楽も唇を尖らせながらも、微笑んだ。
「ひどいなぁ」
「ははは。すまんすまん」
 余程ツボに入ったのか、流れる涙を拭う浮竹。
 そんな浮竹に、京楽は囁いた。
 一生、男に向ける事はないだろうと思っていた言葉だ。

「そんなに笑うなら、その口、ふさいじゃうよ?
 ボクの唇で、さ──」

 浮竹の頬が熟れた林檎のように染まったのは、言うまでもない。



end






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