春水くん×浮竹先生
□蕾、ほころぶ
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この時間は好きだな。と、思った。
浮竹と一緒にいる時間が。
それがたんなる年上の男への憧れなのか、それてもそれ以外の何かからくる感情なのかは、まだわからなかったけど。
「先生って、誕生日いつなの?」
「十二月二十一日。お前は?」
「ボク? ボクは七月十一日」
「へぇ。あと二ヶ月か」
京楽は浮竹と話をしていた。毒にも薬にもならない他愛の無い世間話だったが、ふたりとも不思議なくらい楽しそうだ。
「そいえば、先生、身長いくつ?」
「187cmだ」
「ちぇっ。まだボクの方が小さいや」
唇を尖らせる京楽に、笑みをもらす浮竹。
ふたりの間に挟まれたテーブルの上では、いれたてのココアが甘い湯気を立ち上らせている。
「すぐ伸びるさ。成長期なんだから」
「勿論。だって、うちの父親も兄も、190オーバーだもん」
「それは凄いな!」
のんびりとした会話。
初めて交際をする小、中学生だって、もっと気の利いた話題をふるだろうに。
「浮竹先生って……独身?」
マグカップに添えられた左手に、指輪は無い。
今日日、結婚していても指輪をしない男性は多いが、浮竹は多分違うだろうな。と、思った。
もし結婚しているなら、彼は妻を愛し、その愛の証を身に付けないなんて事しないだろう。そう確信していた。
「ああ、まあな……」
苦く笑いながら、京楽の鳶色の瞳が向かう自分の手を見下ろして、浮竹は言った。
「こんな病持ちの男の嫁に来てくれる奇特な女性は、そうそういないさ」
「…………」
そうだろうか。
浮竹がその気になれば、どんな女性だって放っておかないだろう。
優しく、穏和で、意志は強いが、けして頑固ではなく。
妻を愛し、子供を慈しむ、良き夫であり、良き父となるだろう。
「世の中には、見る目の無い女性が多いね」
自分みたいに薄っぺらな言葉を吐く、見目くらいしか取り柄の無い男なんかより、浮竹の方がずっと人として、男として優れている。
心の底からそう思った。だけど。
「……お前は良い子だな、京楽」
伸びてきた手が、癖のある髪を撫でる。
子供を相手にする手付きだ。
浮竹にとって京楽は、やっぱりただの一生徒に過ぎないのだろうか。
そう考えたら、なんだか少し腹の底あたりがムズムズする。
これはあれだ。両親や兄、中学時代の教師に叱られた時に感じる──苛立ちだ。