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□××の理由
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「遅いな、京楽の奴…」
 浮竹が京楽と待ち合わせしていたのは、現世の喫茶店であった。
 先日、現世の雑誌を片手にどこに行くか検討していた際、発見した店だ。
 浮竹がその店のオススメスイーツを涎を垂らさんばかりの勢いで見つめていたのを、京楽はしっかり確認していたらしい。
 余りの遅さに腹を空かせた浮竹は“仕方無く”お目当てのパフェを注文した。本当は京楽が来てから注文しようと思っていたのに。
「寝坊でもしたのか、あいつ?」
 京楽の不在に心配と不安に心を悩ませる浮竹であったが、運ばれてきた巨大パフェを見ると、そんなもの吹っ飛んでしまった。
 色とりどりの果物とアイスの乗ったパフェは中年の男が食すには些かカラフルすぎるようにも見えたが、残念ながら事食事に関して、浮竹は羞恥心というものを持ち合わせていなかった。



「………ん?」
 パフェを食べはじめて数分。
 浮竹は自分が周りから視線を送られている事に気が付いた。
『やはり男ひとりでパフェは目立つのか?』
 全長一メートル近くもあるパフェを、ひとりで半分平らげた男に視線が集中するのは、ある意味仕方の無い事である。
 だが、浮竹に視線が集まっているのには、他にも理由があった。

「皆、君に見とれてるんだよ」
「京楽!」
 頭に落ちてきた影に顔を上げると、そこには待ちに待った恋人。
「ごめんね、お待たせ」
 パフェを挟んで向かいの席に腰掛けた京楽は、当たり前だが現世の服を着ている。
 黒の上下と白いシャツ。浮竹のベストとお揃いの帽子を被った頭は、いつもと違って髪はほどかれていた。
「…………」
「どうしたの、浮竹?」
「あっ、いや…」
 思わず見惚れた。とは流石に言えず、浮竹はパフェを口に運んで誤魔化す。
「そ、それより、見とれてるって何だよ」
「言葉の通り。皆、君を気にしてる」
 そんな事は無いと思った。見とれるとするなら、それは自分ではなく──
「さてと。それ食べ終わったら行こうか」
「え?」
「遅れたお詫び。好きな所に連れてってあげるよ」
 その言葉に、浮竹はぱっと顔を輝かせた。





 それからふたりは、ショッピングを楽しみ、昼食を食べ、三時のおやつを食べ、夕食を食べ──最終目的地へと辿り着いていた。


 
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