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□独り月夜に
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「ふっ……」
袴の中に右手を差し入れ、甘い記憶に反応し始めていた己の雄を握りこむ。
京楽が自分にしてくれた愛撫を思い出し、先端をそっと撫でる。
指の腹に感じる濡れた感触に、浮竹の背中はぞわりと震えた。
先走りの蜜を塗り込めるように指を動かすと、すぐにまた新しい蜜が溢れ出てくる。
そんなに飢えているのかと、自嘲する余裕など無い。
片手ではすぐに物足りなく、また窮屈であり、浮竹は一度腰を浮かすと袴を脱いだ。
薄く差す月明りに照らされた下肢は青白く輝いている。
今度は両手で己の雄を握ると、浮竹は再び京楽の事を思い出した。
『十四郎…』
耳に直に吹き込まれた低い声音を思い出す。
背筋がじんっと痺れて、また蜜が溢れた。
「しゅん、すいっ」
くちゅくちゅ鳴る蜜口を親指で撫で、根から先端にかけてをもう一方の手の親指と人差し指を円にして擦り上げる。
「ひっ……くぅっ」
『可愛いよ、十四郎……』
自分を組み敷き、乱れる姿を目にする時、京楽は浮竹にしか聞かせない艶を帯びた声でそう囁いた。
『もっと見せて……もっといっぱい乱れて……ね?』
「しゅ、すいぃ」
指の動きが早くなる。
京楽が自分を追い立てる時の記憶を重ね、指を早めていく。
『十四郎、やらしい…』
くつくつ笑う声に浮竹の羞恥は煽られ、なお蜜は零れる。
違うと反論しようにも、浮竹の雄は堰を切ったように蜜を流れさせ、雄だけでなく、指や腹、さらには後ろの蕾までも濡らした。
『ほんとにやらしいねぇ。指の一本や二本、簡単に入りそうだよ?』
浮竹は口の中に溜まった唾をこくりと飲み込むと、寝返りを打って、体を丸めた。
一方の腕はそのまま。もう一方の腕は、記憶の中の京楽の言葉に従って後ろへ。
『わかる、十四郎? 君のここ、欲しい欲しいっておねだりしてるんだよ』
そっと触れた蕾の縁。そこは怖いくらいに熱くて、京楽の言葉通り何かを飲み込もうとひくついていた。
まるでそこだけ別の生き物のように、浮竹自身の指すらも飲み込もうと誘っている。
「くっ…!」
さすがに己のそんな場所に指を差し込む事には抵抗があり、一瞬躊躇した浮竹であったが、快楽の前に理性は簡単に崩れさってしまった。
「ふっ、うぅっ…!」
蜜で濡れた指を一本挿入させる。
くちゅりと濡れた音をたてはしたが、思ったほどの苦痛は無かった。
当たり前といえば当たり前の事である。京楽の指は浮竹の指よりも太いのだから。
だが、圧迫感が少ないという事は充実感も少ないという事でもある。
たった指一本では、少しも満足出来ない。
浮竹は思い切って、指を三本に増やした。
「ふあぁっ!」
一気に蕾を広げられる感触。
さすがに苦しかったが、やっと京楽が与えてくれるのに近い充実感を感じる事が出来た。
「熱っ…」
京楽が褒めていた蕾の内の熱。それを初めて自分で感じとり、浮竹は恍惚とした表情で荒い呼吸を繰り返す。
「春水……んっ!」
ぐちゅり、と内で指を動かす。
濡れた音とともに、自分の内壁が絡み付いてくるのがわかった。
普段京楽の指や雄に絡み付く時より、さらに羞恥心が募る。何しろ恋人の指どころか、他人の指ですらない。自分の指まで淫らに欲しているのだ。淫乱にもほどがある。
けれどそんな羞恥心すら、今の浮竹には快感を増幅させる材料でしかない。
「しゅんすっ、しゅんすいぃっ……あっ、もっと……奥がっ」
ずぶずぶと沈んでいく浮竹の白い指。
京楽の指よりも若干短い指は、浮竹の一番欲しいところまでは届かない。
京楽がよくするように、焦らされているようだ。
「やっ、届かなっ…」
浮竹はたまらずさらに体をくねらせ、より一層深いところに触れようと指を伸ばす。
「あっ、ぁっ、ゃあぁっ!」
浮竹の自身の爪が一番欲しい個所を引っ掻いた途端、目の前が真っ白になった。
短い悲鳴をあげ、浮竹は己の掌に蜜を迸らせた。
「はっ、はぁっはあ」
指を引き抜き、固まっていた体をゆっくりと伸ばす。
あちこちべとべとで気持ち悪いが、今は何も考えたくなかった。
隊長羽織の下は死覇装の上だけ。おまけに腹やら腕にはべっとりと白濁の体液。
こんな姿、部下に見られたらさすがに問題だと、浮竹はせめて汚れを拭き取ろうとちり紙を探した。
だが、ふと巡らせた視線の隅。入口にかけられた御簾の向こうにうっすら人影を発見し、浮竹の全身からいっきに血の気が引く。
「誰だっ!」
袴は遠い。浮竹は咄嗟に隊長羽織の前をかきあわせ、あらんかぎりの声で叫んだ。
しかし。今の今まで気付かなかったその人物の気配が、自分のよく知る男のものだと気付くと、浮竹の顔は茹で上がったかのように赤く染まる。
「なっ……お前……」
「こんばんはぁ、お邪魔するよぉ」
御簾を捲り上げ、にこりと立っていたのは、つい先程まで夢想の中で浮竹を抱いていた男。八番隊副隊長の京楽春水であった。