たんぺんA
□ニブンノイチ、ハッピーエンド
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「幸村さん、じゃあまた夕食の時に見に来ますね」
「ありがとうございます」
病室の窓越しに見えるのは桜の木。桜シーズンは終わりを迎えて、夏を待っているかのようにその枝を緑色に変化させた
『精市、もう入って平気?』
「うん、いいよ」
この固いベットにももう慣れた。一日三食運ばれてくる食事は、相変わらず薄味だけれど
『看護婦さん、何か言ってた?』
「べつに。あ、でも少しだけ点滴の量が減って、食事が増えるって」
『それはそれは』
よかったよかったと嬉しそうに笑う彼女。この笑顔を絶対に絶やしちゃいけない、悲しませちゃいけない。その想いで必死に治療に専念してきた。もちろんそれはテニスのためでもある。俺達立海の全国制覇は必ず現実にしなければならない。でもその全国制覇の夢を叶えるために、これまで頑張ってこれたのはやはり彼女のおかげだ
「そういえばどうだった?今日の学校は」
学校帰りに毎日訪ねて来てくれる彼女から、今日あった出来事を聞くのが俺の日課。それを楽しそうに話す彼女の姿に、思わずほころんでしまうのは今に始まったことじゃない
「へえ、真田が赤也が遅刻して来たからっていじめてたんだ」
『ひどいでしょ。弦ちゃんきちくー』
「あとでメールでよく言っとくよ」
『明日が楽しみだね!』
ああ、もう可愛いなこいつめ
『わっ、ちょっと精市?』
「しー」
あわてふためく彼女にわずか数センチの距離で静かに、と口元に人差し指を押し当てた
『しーって、どうしたのいきなり』
「いいから」
ベットから少しだけ乗り出して、彼女を抱きしめる。そっとそっと
「ごめん」
『何がさ』
「ありがとう」
『意味わからんよー』
くすくすと笑う彼女はきっと、俺がなんでこんなことを言ってるのかわかったはずだ。寂しい、辛い思いをさせてごめん。そんな俺を、俺だけを見続けてくれてありがとう
「あれ、腕に力入らないな」
『そりゃあ点滴してるしね。当たり前』
「でももう少しだから、」
『ん?』
「もう少しすればこんなもの取れて、思い切り抱きしめられる」
『恥ずかしい人』
「それでもかまわないよ」
そして触れるだけのキスをする。何度も何度も
『精市…っ』
「深いのがいい?それももう少しお預けかな」
『言ってないしっ』
「でもそういう顔してる」
『うっ……』
ニブンノイチ、ハッピーエンド
残り半分が満たされるまで
そう時間はかからない。
その時は強く強く抱きしめて
その時は深く深く繋がらせて
@補足
別に赤也をそういうポジションにしたいのではありません。愛故です愛故。真田も同じく。
20110122