たんぺんA
□おいてきぼりはいやだ
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『何でこんなところにいるのよ』
「何でって偶然?運命って言ったら、」
『怒るからね』
学校の帰り道、一人。部活が長引いたせいで、帰る時間がいつもより一時間も遅くなってしまった。辺りは既に暗く静けさをまとっている
『せっかく今日はあんたの顔見ないで清々してたのに』
「っていうのは冗談で、実は俺が何時何処から現れるか意識しちゃってたんじゃないの?」
『あほか』
そんな帰り道、前方に不審人物を発見した私は少しだけ身構えたのであったが、やはり見間違えだろう。そう思ってすれ違おうなんて考えたのが命取りで。そこで待っていたのは折原という男だった。同じクラスでもなければ接点すらない、なのにいきなり私に付き纏うようになったのはもう一ヶ月も前のこと。初めのうちは学校で会えば手を振られ、名前を呼ばれる程度だった。そんなのはまだ序の口で、次第に彼の好意はエスカレートしていき、私の行く先々に現れては、そこで何か被害を与えるわけでもなく。ただただ私に付き纏うだけ、それだけをする
『あのさ何、付いてくる気?』
「そりゃあ、女の子をこんな暗い時間に一人ぼっちにする訳無いだろう?」
はたから見たら彼は真面目で、優男で、もしかしたら…なんて思うかもしれないが、実際にそうだから、困るわけで。それは私が自意識過剰だからとかじゃなく本当に。いつもはしつこく付き纏ったり、沢山の人の中こっちが恥ずかしくなるくらい大きな声で私の名前を読んだりして、本音を言えばうざい。しかしながら今はそうは思わず、彼は過剰なまでに良い奴だと心の中で笑った。だって彼が私の帰る時間が何時かとか、ましてや一時間もいつもより遅いことを知っているはずがない。じゃあ何故今目の前に彼がいるのか。答えは簡単だった
『私空手黒帯。』
「ふぅん」
『だから一人で大丈夫だって』
有りもしないことを平気で口にしてみるものの、彼がこちらを向くことはなく、驚いている様子もない。ただ私と同じペースで、自分が私より速いと、少し立ち止まって私を待ちながら歩いている。どうしたものか
「本当に?」
『さあ』
「だよね。だって俺の情報にそんなことないし」
『…なんか私のことならなんでも知ってるってとれる発言だけど』
「ほぼ正解。でも肝心なところが抜けてる」
そういった折原はいつものように制服のポケットに手を入れながら、まるで私をあやすように笑いかけた。いつものような優男スマイルではなく、裏のあるような独特な笑い方に思わず直視できずに目を逸らしてしまう
「ほうら、そういう態度とるから余計にわからないんだ」
『全然話が見えないんですけど?』
「気付いてるんだろ?いや、気付かない方が可笑しい」
『だから何がっ…』
少しむきになっている自分に気付く。嵌められた。彼はきっと私がこういった態度をとることくらい知っていた。なのに私は気持ちやただ全てのことを、はぐらかしてばかりいて。なんて卑怯なんだろう、これじゃまるで私が彼のことを手の平で転がして、そのくせ自分は何も知らないなんて態度をこの場に及んでまだ、続けようとしている。自分の答えが見つからない
「そうやって熱い視線を向けられたら俺、照れちゃうけど」
『不公平、だ』
「ん、どうしたの。」
『私だけ何も知らないじゃないか』
彼は私のことを知っている。自分の気持ちが私に伝わっていることも、何もかも。でも私は知らない。その彼の気持ちに答えることが出来るという確信がなければ、かれのことを何でも知ってるわけでもない
「ばかだなあ、それってつまり」
そういって私に数歩歩み寄って、両手を広げる折原
「やっぱり俺のこと、気になって仕方ないんじゃん」
おいてきぼりはいやだ
『そういうことになるのか、』
「ね、だから俺の言った通りだろう?」
『なんかすごく複雑だー』
「そうこう言ってるうちにほら、家ここだろう?」
二人並んであるく、その速さは次第に遅くなって、そうこうしている間に自宅についた
「じゃあ、お別れのキス」
『するかアホ』
「ふうん、ならっ」
身構える時間も私に与えないまま、彼は私の額にキスを送った。
@補足
そしていざやさんは何故家を知っていた?(笑)
20101212