たんぺんA

□例えば結末がわかっているラストシーン
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「ごめん。」



その一言だけが彼の口から告げられた。そんな答えが欲しかったわけじゃない、でもその言葉が返ってくることくらいわかってた。わかってたはずなのに、何故こんなにもずきずきと心臓が痛むのだろう



『うん、別にいいよ。そう言うんだろうなってことくらいわかってたから』

「、ごめん」

『何で新羅が謝るのさ』

「だって僕は君の気持ちを知らなかったわけじゃない。ただ触れないように、見ないように背を向けていたんだ」



そういって新羅はまた顔をしかめた。あたしは新羅の笑顔が好きなのに。まあそんな顔をさせてしまっているのは、紛れも無くあたしが原因なんだけれども。
新羅のことはなんでも知っている。四字熟語が好きで好んでよく使うけど、相手にその意味が伝わらなくて軽くへこんじゃうとこも、嬉しいことも悲しいことも、それを誰かに話したくて堪らなくなるとこも。だってずっと見てきたから。始めのうちはもしかしたら私のこと好きなんじゃないかなんて思ったりもした。それはただ、女友達が私くらいしかいなかったっていう理由からじゃなくて、新羅と話す時彼は笑って、相槌を打って、そして決まって私を肯定してくれたからっていうほうが強い。だから最近まで気付かなかった、気付けなかった。彼は私なんかと出会う前から、想いを寄せてる人がいるってことに。そして彼は人間ではない“彼女”を愛していた。もちろん私はつい最近まで知らなかったけれど



『新羅、合縁奇縁って言葉知ってる?』

「人と人との巡り会わせはとても不思議ってこと、だけど」

『もし私がさ、セルティさんよりもずっと早くに新羅と出会ってたら、新羅は私を選んでたかな』



私としたことが。これじゃすごく嫌な女じゃないか。どうせ新羅はセルティさんを選ぶんだから、ずっといい友達でいたいのに



「それでも僕は、セルティを選んだと思う」

『だろうね』

「わかっててそれ聞くんだ」

『知ってるでしょ?私はそういう人間なのよ』



初めて新羅がセルティさんを私に会わせてくれた時、真っ先に思ったのは、新羅は本当にこの人が好きなんだなってこと。悪い人じゃない。とても女性らしくていい人だ。だけど、何で私じゃないんだろうなんて思ってしまったのも事実だった



『やっぱり私じゃ、セルティさんには勝てないよねー』

「だろうね」

『新羅の口からそれを聞くとちょっと落ち込むかも』

「ごめん。他にいい人でも紹介しようか?」

『折原だったら怒るからね』

「ばれた?」



あ、笑った。その笑顔が見たかったんだ



例えば結末がわかっているラストシーン



『でも生憎、暫くはそういう気分になれそうにないからさ、』



そういって新羅に一歩、近づいて



「うええ、ちょっと!」

『セルティさんとはまだキスできてないんだもんねー。初めてのキスが恋しくなったらいつでも呼んで!』




ファーストキスを、奪ってやった(ざまあみろってんだ!)



20100822


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