たんぺんB

□病みはじめたワルツ
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『何の為に勉強するのかって、人類の永遠のテーマだと思うんですよね私』



夏真っ盛りのこの日、彼女は俺の仕事場を訪ねてきた。珍しいこともあるものだと思いつつ、些か悪い気分になるはずもなく彼女を中に招き入れる。すると彼女は俺に挨拶代わりのキスも無しに、ずかずかと部屋に入った(まあいつも欧米スタイルをとってるわけじゃないけど)。そしておもむろに、お客用テーブルの上に置いてあった資料やらを退けて、自分の鞄からやたら沢山の本を出す



「そうかなぁ。そんなことを考えてられるのって君くらいの年頃までで、大人になれば忘れるほど世間にのまれてくよ?」

『じゃあ私は今、精一杯永遠かもしれないテーマについて考えたいと思います』



彼女は所謂受験生。地獄の夏休みを満喫中というわけだ。それを良いことに彼女に(愛のある)精神的苦痛を与えてあげてもいいんだけれど、なんとなく今は気が引けてしまう。しかし、何故よりによって俺の所なんだろうか。もしかしたら勉強漬けの毎日と俺に会えない寂しさに耐え切れなくなって…と思って彼女に聞いてみたら、近所の図書館も喫茶店もどこも満席。そこで無料で涼しい場所を連想していたら俺の所を思い付いたらしい。不本意だな



「とか言いつつ寝るな」



いくら口が達者でも真面目に勉強する気は無いらしく、永遠かもしれないテーマとやらを考えると言いながら早速テーブルに伏せた。だからちらりと見えた彼女の頬を引っ張って起こしてあげた(良いことをした)



『いー!いはい、いじゃやはん!』

「せっかく眠気が一瞬で飛ぶ魔法をかけてあげたのに」

『魔法じゃないです、いじめ行為です』



手を離してあげてもなお、頬をさする彼女。そして何かぼそぼそと呟きながら渋々テキストに手をのばす



『だって、ありえなくないですか毎日毎日机に向かって文字ばかりの面白くもないテキストと格闘して』

「一生に一度くらいだよ、そんな過酷な夏休み過ごせるのは」

『あーそれ知ってます。どっかの通信教育のCMで見ました』



そんなことを話しながらも、彼女のシャーペンはしっかり動いていた。結局のところ俺に会いたかったんだと思う(多分だけど)。その口実に勉強を使って(わかんないけど)。まあ俺は俺で手付かずだった仕事を、彼女と話しをしながらなら進められている。どっちもどっち、というわけか



『臨也さーん』

「何」

『ここわかんないんですけどー』

「持ってきてくれたら見てあげてもいいよ」

『来てくれたら教えてくれてもいいですよー』



なんてこんなやり取りには慣れている。お互いかなりの頑固だから、だいたい大人な俺が折れてあげるけど。我ながら良い判断だと思う。自分のデスクにあと少しで片付く仕事を残し、渋々彼女のもとへ



『これ』



指差した数学の問題。楽勝と言わんばかりの早業で彼女に教えてあげる



「っで、わかった?」

『臨也さん頭いいんですね。私はてっきり何時でも人間のこととエロいことしか考えてない危ない人だと思ってました』



あはは、と笑う彼女。ここはきっと言葉攻めという名の、(愛のある)精神的苦痛を味あわせてあげるべきなんだろうけど、



「その通り」



いつもワンパターンじゃ、つまらないだろ?



『え?』

「君の言う通り、俺の脳内は万年中二病みたいなものだからさ?」



彼女との距離をじわりじわりとつめていく



『そこまで言ってな、』

「君のこの唇をどのタイミングで塞いだらその気になるか、部屋に招いた時からずっと考えてた」



そして彼女の顎を俺の右手が捕らえて、



『い、臨也さん、私勉強しなきゃ、』

「そんなの俺がいくらでも教えてあげるよ、あとで」



小さな抵抗をするその口を俺の唇で塞ぐと、彼女は自ら舌を絡めてきた。満更でもないのか。俺もまだまだ若いな、なんて思いながら多少つのっていた寂しさやらを紛らわすのに、いつの間にか必死になっていた。



病みはじめたワルツ





@補足
勉強がつらいので受験生の気持ちになってみた、夏休み終わっちゃったけど。



20110901


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