たんぺんB
□読めない下心
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絶好の昼寝日和である。
太陽の位置は高すぎず、風も驚くほど気持ちがいい。そう、絶好の昼寝日和である。そんな日に限って部活があるものだから、やる気なんてものはどこにもない。転がってすらない。しかも今日は男子テニス部と合同練習ときた
『ふわーぁ、っうわ!』
「面倒臭いって顔に出てますよ、先輩」
いろいろ言っても練習しないわけにもいかないので、ベンチに座ってシューズの紐を結び、大きく伸びをしてから立ち上がろうとした。あくびが出そうだったのにしそこねたのは、急に後ろから声がしたからで。振り返ると声の主は、何食わぬ顔をしてこちらを見下ろしていた
『何だ幸村か』
「何だとは酷くない?あれでしょ、きっと丸井だったら大喜びだったでしょ」
『わかってるじゃん』
2年生の幸村精市。実力は3年の私(女テニの中でも強い方)にも負けず劣らずで、正直苦手だ。1回だけ試合をしたこともあるが、まず手加減というものを知らない。女の子だから何?といった感じで、私の苦手なコースばかりを狙ってきたことは今でも根に持っている。態度も気に入らない。私を茶化すような態度や敬語を使わないところも(もしかしたら敬語を知らないんじゃないかと、真面目に心配になる)。そのくせ部活への、テニスへの志は人一倍で。誰よりも勝ちに執着する
「知ってます?言葉って時に暴力になるってこと。まさか先輩のくせにそんなことも知らないんですか」
ちなみに私は1年の切原でもウェルカムだったよ
『今の幸村ほど面倒臭い人、居ないと思うよ』
心底嫌そうな顔をして言ってやったら、鼻で笑われてしまった。
幸村の事は苦手だけど、からかったり、わざと困らせてみるのは案外面白い。こんなやり取りも日常茶飯事だし、結局幸村が私に口で勝つのは100万年も早いのだ。だから今日も少し困らせてやろうと思った
『そーだ、ゲームやろうゲーム』
「俺が先輩と?嫌です」
今日のメニューは男女対抗で一対一のゲームらしい。普通は同じ学年同士でやるんだろうけど、まあ出遅れてしまったわけで。生憎他の人達はそれぞれゲームを始めてしまっている
『私だって出来るなら仁王とゲームが良いし』
「じゃあ仁王呼んでくるよ」
『もうゲームしてんじゃん。ていうか幸村に拒否権は無いよ?私の昼寝日和を奪ったお前に』
「俺のせいじゃないし、それ」
『先輩の言うことは絶対です』
適当に理由を付けてみたら、意外にも幸村は早くに首を縦に振った。あら、本当に意外
「じゃあ一つ、条件付けるけどいいよね」
お前は本当にむかつくな、敬語使えないのわざとだろ。しかも上からの物言いとは。しかし私が条件をのまないとゲームが出来ないので、とりあえず聞き入れることにした
『内容による、』
「じゃあゲームするかわりに、今日一緒に帰ってください」
『…はい?』
驚いた、敬語使えるんだね。じゃなくて。幸村のことだから一体どんな嫌がらせのような条件を出すかと思えば、何この純粋無垢みたいな発言。しかも「俺が勝ったら」の話じゃなくて、ゲームしてやるから一緒に帰ってくださいなんだね。誰この弱気な自己中心主義者
「あれ、先輩照れてるんですか」
と、私を指で差しながら言ってきた弱気な自己中心主義者、幸村
『照れてない。私人より体温が高いの、常に』
「ふうん、おもいっきり動揺してるくせに」
『んなわけあるかっ』
読めない下心
まあこんな奴に限って私なんかに気があるとか、んなわけないよね。
@補足
幸村さんが好きすぎて、そういえば歳をとっくに追い抜かしていたことに気付いて先輩と呼ばせてみました、まる
20110727