連載2

□視線がぶつからないように
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僕が初めて君と言葉を交わしたのは、ある日の移動教室前のこと。
視線を感じるようになってからというもの、度々目が合ったり合わなかったり。わざと合わせてみたりなんて、少し遊んでみたり。僕と目が合うたび、僕がにこっと笑うたび、君は僕の予想以上の反応を返してくれる。面白い、楽しい。別に僕は君のことをなんとも思ってないのに。ああ、なんて悪趣味



『わっ』

「おっと、大丈夫?」



教室を出ようとした僕、と教室に入ろうとした君。よそ見していた僕のせいで、彼女の抱えていた教科書類が音を立てて床へ落ちた



「ごめんね、よそ見してた」

『だ、大丈夫』



二人で屈んで、落ちたものを拾う。端から見れば別に違和感のない光景だろうけど、僕は違う。多分君もだろうね。変に近い君の顔に全く動揺しないっていったら嘘になるけど、それは君も同じなようで教科書を拾う手が少しだけ震えているのが見えた



「はい、本当にごめんね」



拾い終わった教科書をまとめて差し出す



『ありがとう、』

「あ、待って」



進行方向からくるっと振り返り、不思議そうに僕を見る



「やっぱなんでもないや。ごめんね」



視線がぶつからないように



呼び止めてしまったのは、どこかに何かしら考えがあったから?なんて自分に問いてもわからなかった。突発的っておそろしい。
進行方向に向き直って歩き出す彼女の後ろ姿に笑いかけ、僕も教室へと歩き出した



20100319


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