連載2
□つまりあたしは惚れてしまった
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思い返してみた、全てを。
『んーっ、っだはー』
誰もいない屋上、出入口の上のスペースに寝転がって一つ大きな伸びをした。時刻は午後2時を回り、授業開始を告げるチャイムはとっくに鳴った。それがわかっていて今もなおここにいるのは、とてもじゃないけど真面目に授業を受けられる心境ではなかったから(とはいっても出たところで真面目に授業を受けたりしないけどね)。
その人を好きでいることがその人にとって迷惑なのかなんて、やっぱりその当の本人にしかわからない。そんなことあたしが一番理解してるはずなのに、雅治なんかに問いてしまったあたしは馬鹿だ。その時思い出したのはあの頃のこと、そしてブン太に恋したあの日のことだった。
今から遡ること半年、その頃のあたしはというとやっぱり一人の人にはまってしまっていた。毎日毎日追い掛けて追いかけて、追い付かなくて。それでも諦めなかったのは自分にだけは素直でいたい、そんなちっぽけなポリシーがあたしを征服していたから。そんなあたしとしたら平凡な毎日に一人の男の子が現れた。お昼休みいつも一人で過ごす、誰もいない屋上。そこで待ち構えていたのは今日みたいな、あたしの行動存在自体を邪魔だと感じている人達。そうだ思い出した、以前にも同じようなことがあった、だからあたしはさっき抵抗もなにもしなかったのかもしれない
「いい加減にしたら?」
『何を』
「あんた、自分が何してるかわかってないの?」
「あたまわるーい」
腕組んでガムくちゃくちゃ噛んで、吐き捨てる言葉はまさに最低
『うるさいな、あなたたちも好きなら振り向いてもらうために頑張るとか、なんかないわけ。』
「私たちはあんたとは違う!仁王君は、仁王君はみんなのものなんだから!」
あたしがその頃好きだった相手、今じゃ考えられないくらい大嫌いな男“仁王雅治”
『仁王はものじゃない』
「そんなのわかってる、何よみんなの仁王君に嫌がらせしといて」
『愛情表現。なにか問題でも?それにみんなのって言ってる時点で、仁王のこともの扱いじゃん』
「ほんと、ムカつくっ」
そういって、一人が手にしていたペットボトルの蓋を開けてあたしに向かって投げ付けやがった。痛い痛い、冷たいそして痛い。そんなあたしを見兼ねたように鳴り響く予鈴のチャイム
「仕方ないからこのへんにしといてあげるわ、」
「懲りたなら金輪際、仁王君に迷惑かけないことね。」
散々ヘドが出るような言葉を吐き捨てたにも関わらず、最後の最後にもう一本ペットボトルを投げ付けられた。痛い
『誰が懲りるかっての』
奴らが出ていった出入口に向かって舌を出していってやった。その頃はホントに本当に、雅治しか見えなかったんだな。そう思ったら、なんだか吐き気がするけど
「へぇ、マジでこーゆーのってあるんだな」
その時も今日と同じように頭の上から声がして、見上げてみるとそこには赤毛の男の子がいた
『何、見てたの?悪趣味ね』
「そういうわけじゃねーよぃ」
『じゃあ何なの』
「俺は女が大っ嫌いだ」
『は?』
何ですか初対面でメンタル告白って
「でも安心しろぃ。おまえのことは嫌いじゃないと思う」
『そりゃどうも。意味わかんないけど』
「だから頑張れ」
その一言があたしを動かしたなんてブン太は知らないだろし、もしかしたらこんな出会い自体覚えてないかもしれない。でも初めてだった。初めてあたしのことを応援してくれた人だった。今まであたしを見る周りの目は冷たくて、だからってポリシーを破るなんてあたしにはできなかった。だから渦の仲にいつも独りぼっち。願いや想いのためならそんなこと、気にしたりはしなかったけど、やっぱりあたしは独りぼっちが嫌だった。
だからきっかけはほんのささいなことでよかった。それがあたしの場合、本当に大きな力を持っていたからっていうのもあるけれど
つまりあたしは惚れてしまった
願いや想いは届かない、だから“今のまま”じゃいけない。そうわかっていても“今のまま”を手放したくないっていうのも本心。馬鹿騒ぎできる“今のまま”が自分にとってどれだけ大きなものだったのか、今に至るまで知らなかったあたしは、やっぱり馬鹿だ。
ふと気がつくと校庭は部活動をする学生で賑わっている。その中から一番に見つけてしまったのは雅治だった
@補足
仁王を追い掛けなくなったヒロイン、それと同時にヒロインを追い掛けるようになった仁王。
ヒロインが仁王から雅治と呼び方を変えたのは、あまりにもしつこく付きまわる仁王を大人しくする術の一つということを発見したから。
20100317