たんぺんA

□不意打ちフィナーレ
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※刹那は美術部部員





「まだだ、動くな」



これで何回目だ、などと呆れたようにため息をつかれる



『もうかれこれ20分以上たってるんですけど?』

「音を挙げるのが早いな」

『そうだ、休憩休憩ー』

「おいっ、」



放課後。
絵の具のにおいがひどくこびりついたように漂う室内、テーブルいっぱいに広げられた画材の数々。
一応私は美術部に所属しているわけだが、絵は下手、センスのかけらもなく、今目の前に広げられている画材を使ったこともない。そのことを自分自身よくわかっているのでいわゆる幽霊部員、まともにこの美術室に足を運んだことがない



『見てもいい?』

「駄目って言ったって見るだろ、お前」

『やっほーい』



なら何故美術部になんか所属しているのか、何故今日もサボるはずであった部活に私は来ているのか。原因はどちらも、目の前で不機嫌そうに外に目をやっている刹那という男のせいである



『へぇ、やっぱり上手いね』

「そんなことは、ない」



どうせ家に寄り道もしないで帰るなら手伝え。そういって一方的に美術室に連れて来られた。私の意志は無視か、拒否権はないのかと連れられる間に問うてみたが、こちらに振り向くこともなく、ただ前だけをみて歩いていった



『良いじゃん。これ、才能だよ?』

「無駄口たたいてる暇はない、ほら早く席つけ」



というわけで仕方なく手伝わされ、あげくのはてには絵のモデルになるよう頼まれた。別にそのことが嫌なわけでも、かといって好きでやってるわけでもない。断る理由が無いだけだ。
そして、彼の力に少しでもなれる、それがうれしかった。絵が下手な私が、センスのない私が、美術部に入った理由は彼にある。一見絵画の世界とは無縁そうな彼が、一体どんな世界を創るのかをこの目で見てみたいと思ったのだ



「あとは表情だけなんだが、」

『…なにか問題でも?』

「俺は笑った顔が描きたい」



じゃあそうすれば良いじゃんと返したら、お前が笑っているところを描きたいのだと念を押された。いきなり笑えといわれて、作り笑いの一つでもできるものなら苦労も無いが生憎、私にそんな技術はない



『えー』

「いつもみたいに笑ってくれればいいだけの話だ」

『ならどうしたら笑えるのさ』



何だかめんどくさくなってきたので、少々投げやり気味に刹那に聞いた。彼は少し考えてから、いきなり真剣な顔をして、こんなことを言い放ったのである



「お前のこと好きだなんて言ったら、いつもみたい笑ってくれるか?」



不意打ちフィナーレ



あまりにも真面目な顔して言うものだから、そこには少なからず私への想いとやらがあるのだろうと察した



『…っ…う…』

「!な、なんで泣くんだよっ」

『し、知らん…っ…』



その後も溢れ出した涙は止まる事がなかったが、柄でもなくあたふたする刹那の姿があまりにも可笑しくて、思わす声をあげて笑ってしまった。





@補足
『いつもみたいに』ってことはつまり、刹那はいっつも彼女のことを見てました。ノートとか彼女のイラストばっかり。



20110103


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