たんぺんA
□かすめた正論
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人見知りである私にとって、他者からのお節介ほど迷惑なことはない
『ちょ、エーカーさん?!』
「何だ、問題でもあるのか」
『大有りですけどっ』
久しぶりに顔を合わせたのでいつもより少し長めに敬礼をした。もしかしたら嫌味によくにたお世辞でも言われるのではないかと少し緊張して、絶対に目を合わせないようにしようなんて考えていたのはほんの5分前のこと。本当ならそのまますれ違って、彼が見えなくなったところで背中に向かってあっかんべーをするはずであった。なのに、なのにいまだ彼と行動をともにしていて、まして彼に手を引かれ(勝手に、だ)何処へ向かっているのかも分からずじまいな私である
『離してくださいって、』
「それは聞けない願いだな」
『なら、どこに行くのかくらい教えてくれたってっ』
「コックピットだ。これで文句はないな」
『え、ちょっと!』
そういっていっそう強く手を握ったエーカーさんは、今までよりも大股でコックピットへ足を進めたのだった。しかしながら女の私では男の彼の歩幅(しかも大股)についていくことは難しく、自然と駆け足になってしまう
「随分と息が上がっているな」
『誰のせいですかっ、』
彼は知らないのだろうか、私があなたの事嫌いだってこと。今までの自分の行いを振り返ってみると、口をきくのは最小限、一応上官であるのにも関わらず、彼の名前を呼ぶときはエーカーさんなどときわめて失礼、そして上官である以前に私より年上である彼に対してだけは敬語を使わない。最低な部下だ、本当に
「これは私の専用機だ。私意外誰一人としてここへ足を踏み入れたことはない」
『はぁ、』
「だが今日は、君をここへ迎え入れようと思う」
彼はいつだって真面目だ、つまり人に本気をぶつけることしかしない。正直うざい、というのは冗談で、ギャグとかも平気で真面目な顔して言うものだから、何が本意で何が戯言なのか全然わからない。だから今目の前の彼が言い放った言葉も果たして本気で言っていることなのだろうか、それともそう見せかけての冗談なのだろうか、さっぱりわからない
「どうかしたか?」
『別に、ていうかこのスペースに二人は狭すぎじゃないですか』
「問答無用」
『うえっ、ちょ!』
元々一人乗りの機体(ますら…名前は忘れた)の中へ先に入ったエーカーさんは私に手を差し延べた。その誘いに乗るか否か迷っていたら、無理矢理手を引っ張られてそのまま機体の中へ連れ込まれてしまった。じたばたと脱出を試みる私であったが、直ぐさま彼によってその扉は閉じられてしまった。
機体に乗るのが初めてであった私は、その迫力に圧倒される。が、それより本当に狭い。なんせ元々一人乗りの空間を二人で共有しているのだ。当たり前といったら当たり前だが、機体に乗っているという興奮よりも、エーカーさんとの距離が近すぎることのほうが確実に私の熱を上げていく。それは相手がエーカーさんだからといった理由からではなく、きっと男性とこんなに密着したことがないことからの、単なるうぶな感情だろう、そう自分に言い聞かせた
『狭い、早くここから出して』
「だから君をここへ招いた。良い眺めだ」
そういって操縦席に座るエーカーさんは、出来るだけ距離を取ろうと無理な体勢をしている私を抱き寄せた。抱き寄せるといってもこの狭い空間でのことだ、結果からいうと私がエーカーさんの膝の上に座る形になってしまった
「君が私の事を苦手人物として見てることくらい前々から知っている。だから上官である私に対しての態度も悪い」
『よくご存知で、』
「だが、一度だって私が君にそういったことを注意をした事があったか?」
『ない、です』
嫌な予感ってものは、よく当たる
「私が部下に対して厳しいことくらい知っているだろう。なのに君に対してだけは目をつぶっていた、何故だかわかるか?」
かすめた正論
「こういうことだ。」
そういって奪われたのは、私の唇だけではなく心も同様で。何故か目の前の彼の事を、昔から好きだったのかもなどという錯覚を起こした。もしかしたら、彼の事を嫌いだと認識する正気まで奪われてしまったのかもしれない。
20101117