たんぺんA

□雨降りラブソング
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本日は晴天なり、本日は晴天なり



「うーん、ちょっと惜しかったね。11秒オーバー」

『いやいや、保健室行こうと走ってたところ、思いだして階段駆け上がってきたんですよ?それで11秒しかオーバーしてないのって寧ろ褒めるところです、じゃなくて』



言いたいことは山ほどあるが、とりあえず言いたいのはこの男に対する不満以外の何ものでもなかった。まあ、それを言ったところで何をされるかわからないので(嫌がらせ的な意味で)黙っておくことにしよう。奴はいまだにこちらに向かって手を振っている。
私にとってどんな存在?なんて聞かれたら、彼氏みたいな人と答えるだろう。私にとってそんなぼんやりとした存在、一条拓磨は毎日のように私を呼び出す。しかも授業中、しかもそれは天気を問わない。別に授業中じゃなくてもいいじゃないか、休み時間になら嫌々なんて思わないし(誤解されるかもしれないが、私は呼び出されることが好きなわけじゃない)



『んで、今日は何用ですか』

「特にないよ」

『…は?』



一条さんは頭が大変よろしい。いつも学年の首席の座についている。しかしながら私の頭は一条さんに及ばないのだ、残念なことに。こんなに授業をさぼってる人が首席だなんてどうかしているが、それ以前に頭のよろしくない私は、それを補うために授業に出るという選択肢がある。だからこうやって用もなく呼ばれることでその選択肢が消えていくのにはたえられないのだ



『だってメールでSOSっていってたじゃないですか』

「それは嘘☆」

『…帰ります』

「ごめんごめん用事あった」



そういって階段に続くドアへ歩いていく私の腕を掴んだ一条さん。いきなり腕を掴まれたことに驚いて振り返ると、なんだか私を諭すようににっこり笑った一条さんと目が合ってその場に残らざるおえなくなってしまった



「てるてる坊主作って」



そういって自分のズボンのポケットからティッシュとハンカチを取り出す一条さん。私にはい、と渡す表情は無邪気な子供のようにも見えたが、要求していることは意味不明としか言いようがない。それよりも今時の男子高校生のズボンのポケットから、ティッシュだのハンカチだのが出てくることが不思議に思えた(乙女か)



『えっと、つっこんだほうがいいですか?』

「僕は大真面目だけど?」

『…帰ります』

「わわ、わかったからっ」



再び一条さんに背を向け歩きだすと、今度はあわてたような口調で、いきなり腕をつかまれて彼の所に引き寄せられた



『ちょ、何っ』

「帰るなんて言う、悪いお口は何処かな」



引き寄せられたかと思えば一条さんの腕の中。そして逃げるという選択肢にたどり着く前に、彼によって口を塞がれてしまった。長い長いそれは、私の中の酸素を奪っていくだけでなく帰るという思考さえも奪っていった



「僕はね、雨が降ってほしいの。わかる?」



一条さんが私を呼び出すようになった頃、私は約束を取り付けた。雨の日は保健室、というもので、いきさつはたしか当時が梅雨の時期でそれでもって私の教室から保健室が近いっていうただそれだけのことであった。そうしたら一条さんも約束を取り付けた。晴れの日は屋上、ちなみに彼は私の教室から屋上までの道のりが一番遠いということを知っている



『そんなに眠りたいわけですか、』

「はずれ。いちゃいちゃするんだよベットで」

『…馬鹿みたい』



雨降りラブソング



一条さんから受け取った材料で作ったてるてる坊主は、そのあと屋上に逆さまで吊されたとさ





@補足
あれ、一条さんの一人称って…僕だっけ?



20100925


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