機動戦士ガンダムSEEDーZ
□第03話 『陽が沈んで』
1ページ/4ページ
「む…これは駄目だなぁ」
ベランダでコーヒーを一口含み、即座にカップの端を離して渋い顔をする。バルトフェルドの趣味であるコーヒーのオリジナルブレンド作成に勤しんでいたようだが、うまくいかなかったらしい。
「どうしたんです、バルトフェルドさん?昨日はもう少しで新しいブレンドが出来るって言ってたじゃないですか」
「いや、ちょっと別のブレンドを試してみたくなってね。挑戦してみたんだが…やはり駄目なものは駄目だな」
隣で本を読んでいたキラが怪訝そうに話してくるのを、バルトフェルドは渋い顔で言葉を返した。ここでキラに味見をさせないのは、バルトフェルドなりのこだわりを持っているからだ。他人に媚びたオリジナルブレンドなんぞ、趣味とは呼べない。
「どうして急に?」
「なに…ほんの気まぐれさ」
バルトフェルドの声が濁ったのをキラは聞き逃さなかった。何か思うことがあるのは確かである。しかし、無理に聞き出そうとは思わなかった。自分も、あまりしつこく他人に質問されるのが嫌いだったからだ。
キラはそのままそうですか、と一言だけ発して再び文字を追い始めた。
「なぁ、キラ。君はこの世界以外にも別の世界があるって思った事は無いか?」
「え?」
丁度その手の本を読んでいただけに、キラは一瞬驚いた。だが、そんなものは現実にはありえない話で、その類の話題は本の中だけのものだと思っていた。バルトフェルドの言葉は、まるで手元の本の中から飛び出して来た台詞みたいだ。
「あ、バルトフェルドさんも興味あるんですか?」
「ん…い、いや。そういうわけじゃないんだ」
笑ってキラが手にしていた本をかざしてアピールする。それに対してバルトフェルドは苦い顔をして拳を口元に当て、一つ咳払いをする。我ながらおかしな事を言う、と自嘲する。