魔法使い

□天文学
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『シシー。星が好きなの?』


天文台で光り輝く星を見上げる。寝着の上から何枚ものガウンを羽織って白い息を吐き出す。

冬の夜空はなんて澄んでいるのだろう。

首を最大まで上に向かせると、オリオン座が目に飛び込んでくる。
南を向くと青白く瞬いているシリウス。
ふっとほほ笑んでその星を眺める。

右上に赤い星のベテルギウス。左上に白い星のプロキオン。
「冬の大三角」。さらにその他の星を連ねていくと「冬の六角形」と呼ばれるダイヤモンドも存在する。

詳しくない者が眺めたらどれも一緒と言うだろう。
月くらいしか分からないと。

ふふ、とすでにベラトリックスに言われた言葉を脳裏に思い浮かべながら、冷えてきた手をさする。

その時、後ろから声を掛けられて冒頭に戻る。


『あ、先生。すみません、その、勝手に…』


ぱっと天体望遠鏡から離れる。
暗闇から出てきたのは、天文学教授だった。


『貴方、天文の授業取ってないわよね。シシーであってるかしら?』


どうぞ見続けて構まわないよと、背に手が触れるほどの距離に近づく。友人や姉妹に呼ばれている愛称で話しかけられて戸惑った。


『はい。ナルシッサです。教授』

『そうよね。貴方の今年卒業したお姉さん、知ってるわ。』


そう言われて思いだした。

2年前ほどから、私がとっていた天文の教科書を奪っていった4つ上の姉の事を。
派手なマニキュアを塗った手が天文の本のページを捲っている姿。
それから何だか気味が悪くなって、天文学をとるのをやめた。
趣味で星を眺める分で良かったし、何だか姉が怖かった。


『彼女。結局いつまでたっても、星の見分けがヘタだったわ』


ため息と一緒に吐き出された言葉に少し笑った。


『シリウスは、覚えてました?』


冬の夜空に一層光り輝く星を指さして、教授に問う。
すると、教授は「そうそう」と嬉しそうに言った。


『来年シリウスが入学するんです』


ナルシッサが期待を込めた眼差しでシリウスを見る。


『素敵ね。星と一緒の名前なんて。でも最初から帰る星を決められるのって、何だか悲しい』


未来を見越した言い方で夜空を眺める。
柵の隙間から天文台に足をぶら下げて座る。

その下に2人分もあろうかシートがひかれて、ナルシッサも横に腰かけた。


『それは、亡くなったら星になった。とか、そういう類いの話ですか?』

『ええ。ベラは、オリオン座の2等星ベラトリックスに帰ったのよ。とかね』


じっと教授の横顔を見る。
悲しそうな顔はしていなかった。
ただ、今。ここよりもずっと先を見ていたようだった。

思っていた事の違いにナルシッサが自然に口を開いた。


『私は…それ、良いと思ってました。星の名前がつけられるって、絶対に忘れないと思うんです。どんな形であっても、夜空を眺めると思いだす。』


そこに居る。亡くなってもずっと会える。

教授は「そうね」と言って笑った。

キラキラ輝く星の光で楽しかった思い出だけを抜き取ってくれる。それもいいかもしれない。
暗闇でしか輝けない姿になってしまったけど、ずっと忘れない。



さらに冷え込んできた気温に2人くしゃみが出た。

これ以上此処に居ると風邪を引きかねないと立ち上がる。


『先生。私天文学の授業取ってもいいですか』


『ええ、もちろん。歓迎するわ。ベラより教えがいがあるもの』


2人でクスクス笑いながら階段を下りる。
そして私は寮へと戻ったはずだ。






古ぼけた天文学の本を手に取り、昔の事を思い出していた。


「ドラコは天文学なんて興味ないわよね」


教科書の本に挟まれている写真を取り出す。
その写真に写っているのは自分1人だけで、その教授の名前すらも思い出せないでいた。


ただ、彼女の高い声と薄らいだ姿だけ。



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