魔法使い

□変わらない未来
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「レギュラス!」

校庭近くの廊下を歩いている時、男の声が彼の足を停止させた。

夜のうちから降り積もっていた雪は廊下の石を底冷えさせている。
ビュウと寒い風が吹くのを感じてローブをきつく握りなが後ろを振り向くと、自分と同じように白い息を弾ませた青年が駆け寄ってきた。


「バーティ。おはよう」


校庭の方からやってきたのか、薄茶色の髪の上に雪が積もっていた。
それを指摘すると、慌てて彼はくしゃくしゃと髪を混ぜて雪を払った。


「朝食だろ。一緒に食おうぜ」


レギュラスはコクリと頷くと閉じていた本を再び開き、読み始めた。

歩きながら器用に読み始めるレギュラスの本の中身を覗き込むと「子どもと一緒に室内遊び」と書かれたタイトルの後に絵つきで小さい頃やったことのある遊びが解説されてある。

バーティは眉間に皺を寄せると、レギュラスに聞いた。


「お前ん家、下の子居たっけ?」


「いや…」レギュラスは否定するとまだ本を見たままで話を続ける。

その間に前から来る通行人に気付いてバーティが避けさせるようにレギュラスの腕を引っ張った。


「すまない、ありがとう。僕はその、クリーチャーに…」


そこまで言って、はっとした。

隣に居るバーティの顔を見ると案の定ポカンとしている。


「あの、だな、いつも一人じゃ寂しいと思って、や、屋敷からもそんなに出れないしっ」


レギュラスはたまらず顔を赤くして弁解しはじめた。

わたわたとしている青年を前にバーティは一人納得したらしく返事をした。


「お前、ほんとに屋敷しもべが大好きな。」

「え、あ、ああ」


思っていたほど囃し立てられない事に、上昇していた顔の温度が下がっていく。

レギュラスはホッとして再度歩きだす。もう本を開こうとはせず、脇に抱えていた。


(人の好みはそれぞれだな)
なんて事をバーティは思っていると今度はレギュラスから話しかけてきた。


「お前こそ、あの女教授。どうなんだよ」


レギュラスは数回せき込むとしらじらしく聞いてきた。

彼はさっきよりも眉間の皺を深くさせると「やめてくれ」と言った。


「やたら絡まれてるけど、まぁここの平均上若いし、良いと思うよ僕は」


先ほどの仕返しといわんばかりに口が回る。


「しかも今年で退職って言うじゃん。あーもしかしてバーティ遅かったんじゃないの?結婚退職かもしれないよ?」


肘でバーティの脇を小突くと、彼はパシパシとレギュラスの頭の側面を叩いて自分から遠ざけた。


「良いんじゃないか、めでたい事だろ!」


自分の目にはやけになって言っている風にしか写っていないが、これ以上側面に被害が出ないように「ふーん」と意味深に笑った。


「それに、俺は卒業したら行かなくちゃならない」


普通の魔女と付き合っても可哀想だ。


そう呟くとバーティは前を向いた。
大広間が目の前に見える。
いつの間にかたどり着いていた。


「なるほどね。そこらへん考えてなかったよ」


レギュラスはふうと白い息を吐くと微妙な表情をしている彼の肩に手を置く。


「ああ、良い学校生活だったなぁ…」


しみじみと呟いたレギュラスに思わず苦笑して言い返す。


「…早ぇだろ。後3ヵ月。」

「3ヵ月なんてあっという間だって、お腹すいた早くご飯食べよう」


さっさと大広間へと入っていく後ろ姿を見ながら彼は動こうとはしなかった。



後3ヵ月。




後3ヵ月で、卒業する。


後3ヵ月で、皆と別れる。


後3ヵ月で、あの方の元へ行く。




後3ヵ月で…




後3ヵ月で、あの人はもう見れない。




「クラウチくん!」




後ろを振り返る。



黒の髪なびく、あの人が見えた。











2011/1/10

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