小話
□蕾
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―もうすぐ春ですね―
小さな丘の上。初めて出会った思い出の詰まった場所。一本だけ取り残された木、奴は枝をジッと見ていたかと思うと微笑みながら手招きする。
「ほら、見てください仲達殿」
奴の指先に小さな蕾。
「もうすぐ春ですね」
「あぁ、そうだな」
奴が微笑むからつられて微笑みそうになる。
「好きです」
真顔で言う奴。ちょっとからかってやろう
「花がか」
「違いますよ」
柔らかいものが唇にあたる。奴の唇…
「っ…貴様!」
思わず顔が真っ赤になる。
「私が好きなのは仲達殿…貴方です」
「それがどうしたっ」
奴に抱き締められ動悸がする。奴の顔が近い
「仲達殿は?好きですか?」
「嫌いでは…無い」
「素直じゃないですね」
クスクスと笑われ苛々したものの、奴が好きでたまらない。
「花が咲いたら見に来ましょう」
「あぁ…」
小さな蕾の木の下で
今か今かと春を待つ―
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