◇zack×aerith◆
□震える子犬。/微切
1ページ/2ページ
「よ、エアリス」
彼が突然、髪型を変えた。
なんの前触れもなく、だ。髪型を変えるのなんてその人の自由だけど、何故だろう。心に引っかかるものがあった。
「…ザックス」
「ん?」
いつものように微笑みながら、その蒼い瞳を私に向ける。
でもいつもと違う
髪型が、違う
前回見た彼は、サイドの髪を前におろし、前髪を作っていた。でも今は、一束だけ髪をおろし、あとは全て後ろに流している。
大人っぽくなった気がするのは気のせいか。髪型ひとつで雰囲気は変わるものだと思った。
「髪型、変えたんだね」
「まぁな」
「似合ってる」
「お、ありがとな」
なんと言うのがベストなんだろう。髪型を変える、というのはその人の自由。だけど何か感じるものがある。
あまり干渉しない方がいいのかもしれない。
だけど、私だって。
「何か、あったの?」
あなたが、知りたい。
のに、
「なんでもないよ」
またそうやって、説得力のない笑顔で笑うんだ。
彼はいつでも私を知っているのに、私は彼を知らない。
「イメチェン、かな?」
「そんなとこ」
「女の子がよってくるね」
「俺には、エアリスだけだよ」
その言葉が、とても深く。深く聞こえた。
私と話していながらもどこか上の空の彼は、やはり何かあるのだろう。
「そ、よかった」
私がそう返すと、くすっと笑って座り込む。いつもの、胡座。「どうしたの?」って聞いたら、苦笑いして「疲れた」の一言。
ぴったりだと思った。今の彼にその言葉は。いつもだったら、しつこいくらいに話し掛けてくるのに。なんて、大人しい。
ふと、天井を見上げる。
彼があけた、小さいけど大きい、そんな穴。
そこからは光が差し込んで、この教会をいつも暖かい光で包んでくれる。
こんなちっぽけな空じゃなくて、今度おっきな空を、あなたと見たいな
そんな想いを込めてみる。
「この屋根の向こうには、綺麗な空が広がってるんだよね。お花たち、喜ぶ…かな…?」
干渉しないよ。
抱き締めるだけ。
涙の理由は聞かないから
震える子犬。
(ねぇ、お願い)
(独りで抱えないで)
END