□罠
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終礼も終わって、部活のない奴らはもうすでに帰っている。
部活がある奴は、部室に行った後。

誰もいない廊下。
誰もいない教室。
途中、美術部の先生とすれ違ったか。
窓から夕闇の気色。

今にも降り出しそうと思っていた雨は、やはり降り出した。
ぽつぽつと、雨音が聞こえる。

「…アレ」
靴箱の近くで、見覚えのある後姿。

誰もいない玄関で、うろちょろする姿。

「田島」

振り向くと、やっぱり、田島。

「…ん」
「何してんだよ、こんなとこで…っておい、すげぇ雨」

降り出したと思っていた雨が、勢いをつけて地を打ちだした。

ぽつぽつ、程度の音だった雨が、
今やバケツをひっくり返したような勢いで。

「教室、居残りでさ。…したら、この雨」
田島がちょっとばつの悪そうな顔で笑った。

「…居残り、…って」
呆れながら、外を見やる。

「…これじゃ部活はじまんねぇな」
そう言いながら。
でも。
雨のなか走っていけば。
始まりの時刻には間に合うかもしれないと。

「な」
田島が靴箱に背をくっつけて、座り込む。

「雨、…もうちょっとここで待ってねぇ?」
田島がそう言うのを、俺は待っていたような気がする。

「小ぶりになるまで?」
俺も田島の隣に、座り込む。
…一緒に待ってろってことだろ。

「うん」
腕に半分顔を隠してはにかむ田島を、素直に可愛いと思う。
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