□Cage
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首を掴まれた 
痕が消えなくて


『Cage』


「・・・篠岡のこと、好きだって言えよ」


乱暴に、腕を掴まれて。
手首を壁に押さえつけられたら、もう動けない。
目線を外そうとしてしたを向いても、
片手で強く顎を掴まれたらそれすらかなわない。

怖い、と思って肩が震える。
肩が震えるのを隠そうとしても、
それを隠すだけの方法をしらなくて。
阿部君が無表情のまま、
俺を壁に押し付けて、掴んだ手を離さない。
俺は、そこから動けない。



どうして阿部君がこんなに、怒ってる、のか。
どうして俺はこんなに怖いと思うのか、ワカラナイ。
無言のまま身体をひきずられて、
部室の何もない床のうえに投げ出される。
がしゃん、と音がして。
いつも俺の身体ばかり心配してくれるひと。
目の前にいるひとが、その人だと、信じられない。
起き上がろうとして、ここから、阿部君から逃げようとして。
でも間髪入れずに阿部君が俺のうえに馬乗りになって笑う。

「・・・逃げらンねぇよ」

阿部君に馬乗りになられて、もはやウゴケナイ。
阿部君は冷たく笑って、上半身をかがめて俺にキスを、する。
――…怖い。
阿部君の八重歯が、唇に当たる。
当たった、と思った瞬間、きつく噛まれて。
痛いと思う暇もなく、あっけなく唇から血が流れる感触。

血が出てるはずの唇を、阿部君が舐める。
舐めて、・・・また、舐めて、
口元を流れているのは血なのか、唾液なのか、わからなくなる。
そのうち、いつものように。
じゃなくて、いつもよりも優しく、ゆっくりキスを、する。
舌が絡む音。
息ができなくて思わず吐いた呼吸が、
誰もいない部室に甘く響く。
こんなに、怖いのに。
頭がぼうっとして、何も考えられない。
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