□甘そうで
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表情伝いに揺れる
光る汗。
唇を寄せたらきっと
甘そうで。


『甘そうで』




窓の向こうに広がる青い空。
庭の緑が光を照り返す。
TVからはくだらない番組、嘘っぽい笑い声。
外からはジワジワとセミの声。
気付けばずっと、窓の外ばかり、見ている。

退屈な夏。
今までこんなに、退屈に思う夏、あっただろうか。
足にはギプス。
ウゴケナイ身体。
あまりにも不自由で、
あまりにも鬱陶しくて、
自分で自分に苛々する。

夏休み。
・・・今頃。
グラウンドでは皆が練習をしているだろう。
俺がこうして、ぼうっと外を見ている間にも。
悔しいような、羨ましいような、
苦い気分で胸がざらつく。

――怪我しねぇって、あいつと、約束、したのに。
・・・嬉しかったのに。

それにしたって、メールくらい、くれても。
・・・文字くらい。
そう思うのはおかしいだろうか。
執着している、だろうか。
・・・アイツに。

一瞬、ピリリ、と電子音が鳴る。
「!」
はっとする。
普段だったら気にも留めない携帯のメール受信音。
急いで携帯を手に取って画面を見る。
無意識に探す「三橋」の文字。

「・・・なんだ」
と、つい口に出る。
クラスの女子からのメールだった。
怪我したって聞いたけど大丈夫?だって。
あー。
大丈夫、とか打てばいいのか。
ありがとう、とか当たり障りのない言葉を。
・・・面倒くせぇ。

急に萎えたような気持ちになって、携帯を放り投げる。
すると、今度はピリリリリリ、と着信の音。
・・・電話。
余計面倒なんだよ、電話なんてと思いながら携帯を手に取る。
「・・・ハイ」
自分でもしまった、と思うくらい不機嫌な声が出る。

『・・・あ』
「・・・」
『あ。あ、』
「・・・三橋?」
携帯の向こうで、か細い声。
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