□Happy Birthday
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誕生日だからなんて言い訳で。
誕生日プレゼントなんて口実で。

――実際は傍にいたいだけ。
それを理由にして、会いたいだけ。




『Happy Birthday』


「三橋」
部活のない帰り、ざわつく放課後の教室。
9組の教室をのぞく。
泉や田島が騒がしく他のクラスメートと喋っている後ろで、
所在なく佇んでる三橋を見つけて、
名前を呼ぶ。

ぱっと、振り向いた三橋の顔が、
一瞬緊張したように強張って。
キョロキョロと頭を振った後、
声をかけたのが俺とわかって、
…そのあと、柔らかく溶けていく。
「あ、あべくん」
安心したような、顔で。
慌てたように近寄ってくるその仕草。
「・・・」
毎回思うけど、こうゆう瞬間、結構好きだったりする。

「お前、今日誕生日だろ」
そう声をかけると、三橋がぱっと顔を明るくする。
「な、な、なん」
「・・・なんで知ってんの?って、去年皆で祝っただろ。お前んちで」
「う」
三橋が困ったような恥ずかしそうな、曖昧な表情で、目線を泳がせる。
「?、なんだよ?」
その感情が掴めなくて、つい問い詰めるような言葉が出る。
「う、でも」

三橋は目をキョロキョロさせて、
「で、で、でも」
か細い声。

「なに」
「わざわざ、それ言いに来て・・・くれ、」
語尾が曖昧になるほど、小さな声で。
騒がしい教室のなか、殆ど聞こえない。
…でも、俺には聞こえたけど。

「あのな、俺は」
言葉を続ける。
「誕生日を理由にして、お前に会いたいだけ」
「・・・」
三橋の視線が止まる。
「・・・そんくらい、分かれよ」
ぶっきらぼうに言葉尻を切ると、三橋が
「う、」
それでも嬉しそうに、こどものように、
頬を赤くして頷く。

柱に隠れて、そっと。
三橋の左耳に唇を寄せる。
三橋がその気配に身体を強張らせる。
おめでとう、と言いたくて。
優しく囁こうと思ったのに、急に意地悪な気持ちになって。
赤く染まった柔らかい耳朶を、
前歯できつく、ギュッと噛む。
「い!!!!」
三橋が驚いて、飛びのく。
「ここ、こ」
三橋は噛まれた左耳を抑えて、言葉が出ない様子で。

「――プレゼント、やるから。俺んちに来いよ」
意地悪な笑みでそう言うと、
三橋が思い当たる節があるような顔で、ぶんぶんと顔を横に振る。
酷いこと、されるとでも思ってんのかよ。
――まぁ、するけど。



――これでも気持ちは祝ってんだよ?
お前の誕生日。




end
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