□Kiss
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伝わらないもどかしさ
伝えられない苛立ち
きっとこの言葉が伝わったら
きっとこの気持ちが、…

粟立つ 肌のうえ
早くなる 鼓動


『Kiss』



バタン。
扉が閉まる。
二人きりの部室。
さっき着替え終わった泉が
後は宜しく、といって部室を出て行った。
残ったのは部室の掃除当番だった俺。
…と、着替えるのが極度に鈍い三橋。

「さっさと着替えろよ」
掃除用具入れを開けてほうきを取り出す。
「…う」
もたもたと釦に指をかける三橋。
おぼつかない仕草。
ふと三橋の顔を見ると、瞼が半分閉じかけたままだ。
練習が疲れてもはや眠いんだろう。
でもそれじゃ、…永遠に釦とまらねぇと思うけど。

じっと三橋を見ていると、
それに気付いた三橋が焦って急ごうとする。
それがさらに釦をかける仕草をもたつかせて、
見ているこっちがイライラする。
…あーもう。

ほうきを置いて三橋に近寄ると、
ふと三橋が身構える。
…あぁ。
その身構えに気付かないふりをして、
そのまま三橋のシャツに手をかける。
緊張している三橋の気配が伝わる。
…何もしねぇよ。
10秒で釦を留めてやると、三橋があ、ありがとうとか細い声で呟く。

――思わず、こいつにキスしてしまったのは、いつだったか。
こいつが好きだって、自分で自覚してから。
本当に、好きだって。
文字通り好きなんだって、
口にすればするほど 伝わらなくて。
俺も好きだとだけ繰り返す三橋の、戸惑ったような顔。
思わず肩を掴んで、引き寄せて、
ほんの少しだけ、その薄い唇を、自分の唇で掠めとったのを、
――悪かったと思ってるけど。
後悔してない。

でももうそんな無理なことしねぇ。
そんなことばっかして。嫌われたらそれこそ俺、――
自分の想像だけで、苦々しい気分になって落ち込む。
身構えられて、ちょっと傷つく。けど。



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