□honey
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鼻先に、掠める、柔らかい感触、と。
あまやかな、香り。



『honey』



なんのことはない、いつものキャッチ練習。
途中で練習を遮って、三橋を呼び寄せる。
三橋が少しだけ緊張したような、
そのくせ笑みの欠片を口の端に残しながら走り寄ってくる。

「・・・はい、」

三橋が小さく返事をする。
―自然、とまではいかなくても。
笑顔で、とまで贅沢言わないから。
少しだけ、ほんの少しだけ、
視線が合って。
それだけでも、自分でも嫌になるくらい、楽しくて。

話しているうちに、三橋の視線が
少しづつずれ始める。
最初ちらっ、ちらっと目線が合っていたのが、
そのうち目線が俺のうえのほうになり、
ついには俺の頭のほうばかり見るようになって。

「…って聞いてんのかお前」
「…、あ」
つい不機嫌な声が出る。
眉間に皺を寄せた俺と目が合って、三橋の顔が一瞬で青くなる。
…ホラ。また。
また、いつもの堂々巡り。

「…あべくん」
「…あ?」
思わぬ三橋の問いかけ。

「せ、背、のびた、よね」
「…は?」

また、突拍子もないことを、コイツは。
「そういや、のびたような、気すんな」
とりあえず、そう返事はするけど。

「うん、伸びた」
俺の頭ばっか見てやがると思ったら
そんなこと考えてたのか。
確かに、前よりも三橋の顔が遠い。ような。

三橋がうつむくと、その茶色い髪の毛が目に映る。
コイツ、髪、色素薄いんだよな、とか
今まであんまり思わなかったことをつい、考える。

「…」
ふと、黙り込んだ三橋が、
なぜだか急に顔を赤くする。

「…はぁ?」
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