□意地悪
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誰にも、言えない、
自分のズルイ部分。




『意地悪』




うす曇りの夕方。
三橋とキャッチの練習をはじめてすぐ。
帽子から伸びる三橋の茶色い前髪が、
鬱陶しそうにはねているのを、
俺は見つける。

「・・・おい」
キャッチ練習の途中で俺が立ち上がると、
三橋は怯えた表情で肩を強張らせた。

「・・・は」
「前髪」
「?」
頭からハテナを出して、うまく理解できない様子の三橋。

「伸びたな。見てて鬱陶しい」
言いながら三橋に近づく。
三橋が顔を青くするのがわかる。

「う、っと・・・」
「いや、お前のことじゃなくて」
イチイチ説明するのもめんどうで、つい投げやりなトーンになる。
「前髪」
「う、」
「切れよ。つか、部室にあるから。鋏」

野球部らしく、部室にはバリカンと鋏が常備されている。
「球見えずれぇだろ」
「う、ん」
「切ってやるから」
「うん」
素直に頷く三橋。

ホラ。
そうやって。
俺の言葉に、
素直に頷くのを、俺は期待して。

え、今切るの?という花井の声を無視して、
三橋を連れて部室に向かう。





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