□【chocolate】
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『【chocolate】』


花井が朝から機嫌がイイ。
キモチワルイ。
朝部室に花井が入ってきたとき、
声を大きく はよ! と言われて。
先に部室にいた俺と栄口は、思わず後ずさった。

そのご機嫌の理由をわざわざ問うのも鬱陶しく、
そのまま放っておいたのだけれど。
朝練が終わって、教室に戻っても花井のご機嫌は
続いていた。

うっすらその理由が知れたのは、
なんとなく女たちが小鳥のように囀りながら、
花井の周りにたむろしだしてからだ。

…あぁ。
そっから、思い至ったんだ。
今日バレンタインだ、って。

話しかけやすい気安さからか、花井は
女ともよく喋るし仲がいい。
義理だからね、と冗談めかして楽しそうに、
何人かの女から小さい箱をもらうのを見る。

…朝機嫌よかったのも、ソレか。
「靴箱にでも入ってたんじゃねぇかな、何個か。チョコ。」
水谷がそんな花井を横目に呟く。
「靴箱?…きたねぇ…」
心底、そんなところにある食べ物なんか欲しくないと思う。
「阿部はさ」
水谷がちらっ、とこっちを見て、
「…そうゆうとこが近づきがたいんだよ」
水谷に何でも知っているかのように言われて、つい気に障る。
「…うるさ」
「だから三橋にも」
「…三橋は関係ねぇだろ」

あぁ。水谷ってほんとに腹が立つ。
馬鹿な奴ってほんとに。馬鹿なくせに勘の鋭いところが余計。

三橋は関係ねぇだろ。
近づきがたいって、俺が三橋を遠ざけてるって、そうゆう意味?

そんな水谷を責める言葉が頭に浮かんで、消える。
必死になって言い返すのも、なんか癪だ。
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