□melodies
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バラバラバラ

大きな雨音が耳元で聞こえる。
俺は傘を持って、
雨のなか立ちすくんだまま。

目の前に、傘さえ持たず雨に打たれて三橋がいる。
俺はまた、問いかける言葉も知らないまま。

雨音だけ。


『melodies』


「…お前らなんか変じゃねぇ?」

ギクっとして、振り返る。
水谷が呆れたような顔でそこに立っていた。
昼休み、ざわついた教室のなか。
次の移動教室のための教科書をロッカーから取り出すところだった。

「…何が」
何か言い当てられるような気がして、つい不機嫌な声になる。

「お・ま・え と三橋。喧嘩でもしたの?」
「…なんで」
「…だって部活でひとことも口きかねぇんだもん そりゃ思うでしょ普通」
「…別に」
「ふーん?」
首をかしげて、水谷が席に着く。
同時に、始業のチャイムが鳴った。

…ち。小さく舌打ちする。
コイツ、なんか勘いいんだよな。腹立つことに。


喧嘩なんかしてない。
正確に言えば、喧嘩すら、してない。
俺が不機嫌で、アイツがびくついてるだけ。
言い合いも、殴り合いも、1ミクロンだってしてない。
けど、俺は。

けど、この間からずっと嫌な気持ちがしてる。


『俺以外の、球…受けることって』
三橋がおずおずと言った言葉。
いつか榛名の球を受けることがあるかって、聞きたかった、らしい。
バッカじゃねぇ。
あるわけねぇし、あったとしても。
お前に関係ないだろ、とか。
ムリヤリ悪態ついてみる。
けど…

本当は。

三橋の口から榛名の名前を聞いて、なぜだか苦い気持ちになって。
つい、叶のことが口をついて。
言った瞬間、そんなことを言った自分を後悔した。

三橋に余計なこと言いいやがる榛名にも。
榛名の軽口にいちいち不安になる三橋にも。
試合で散々三橋を消耗させて結局何もできなかった俺も、
そのくせうらみがましく叶のことを口にする俺も、

――全部。

全部、嫌で嫌で、仕方がない。

ただ野球だけしていられたら、いいのに。
誰にも邪魔されないで。
誰の感情にも影響されないで。


…クソ。


こんなことばっか考える自分が、さらに嫌だ。
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