□やわらかい。
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近づきたい。
分かり合いたい。
俺の目を見て、笑って、頷いて欲しい。
たったそれだけのことが、――こんなに苦しいなんて。

『やわらかい。』


俺は変だ。

とにかく構いたくて仕方がない。
とにかく気になって、仕方がない。
視界の端っこに、あの茶色い髪の毛がちらつくだけで、
俺は次何を言おうか頭をめぐらせている自分に気付く。

「三橋」
ビクッ。

…今日もこの調子か。
俺の声に思いっきり肩をビクつかす三橋を見て、俺は内心呆れる。
部活へ行く途中、9組を覗いた。
教室のはじで、三橋の姿が見えた。
座って何かもぞもぞしている後ろから、声をかける。

「部活。行こうぜ」

いつもは田島が迎えに来るのが、
今日は俺だったのがよほど意外だったのだろう。
声も出さず、ただ焦って教科書を鞄に詰め込む三橋。

…いつも教科書なんか持って帰らねぇくせに。

慌てて用意をする三橋を眺めて待ってると、
ふと、三橋の顔がにやけてるのに気付く。

…よっぽど部活行くの楽しいんだな。
…いつも俺の前じゃにこりともしねぇくせに。

自分勝手な思いで、ふと苦い思いが胸を掠める。

いや、そうじゃねぇだろ。俺。

「…にやついてんな」
何気ない軽口のつもりで言っても。
「…!」
声も出さずますますびびる三橋に、また、呆れる。

あぁもう。
どうしろっつーんだよ。

零れる言葉で、意図せず傷つける。
自分の言葉がちゃんと伝わったのか、いつも気になる。

正直、結構しんどい。
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