□なんでもないこと。
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一瞬、その言葉の意味がわからなくて。
あまりにも唐突で、あまりにもありえない言葉過ぎて、
でも、俺、…本当に…嬉しかったんだよ。

『なんでもないこと』

その日は朝からうれしい日。
たくさん眠れて、ぱっと目が覚めて、朝ご飯もたくさん食べて、外へ出たら青空だった。
で、グラウンドに行く途中に栄口君に会って、ちょっとだけ話して、楽しい。

「三橋はなんでーそんなにご機嫌なの?」
田島君が顔をのぞきこんでくる。
昼休みの、いつもだったら皆がご飯を食べ終わって、机につっぷして寝てる時間。

「…へ」
ちょっと意外なことを言われたように思って、一瞬言葉が出なくなる。
「なぁ泉?ご機嫌じゃねぇ、三橋」
「…おお。なんか今日ずっとニヤニヤして気持ちわりぃぞ」
泉君、まで今日は寝てない。俺の顔をのぞきこんでくる。

「ききき、きもちわる…い?」
「なんかいいことあったのかぁ?」
田島君が机ごしに俺の真正面に座る。

「しししし、試合に勝ったから…だよ」
どうしてか本当の理由を俺は口にしない。
俺、ご機嫌…かな。
顔にやけてるかな。

「あやしー」
田島君。じっと顔を見つめられると、すごく、緊張する。
顔が赤くなる、音がする。
小さい頃から、どうしてか、人から注目されると顔が赤くなる。
今でもそれは治らない。
治したいけど、どうしても、だめだ。

顔がにやけてる理由なんて、自分でもよくわかってて。
でもなぜかその理由は皆に言いたくなくて。
うまく言える自信がないのと、なんでか特別秘密にしておきたいような
変な気持ち。

「田島」
泉君が田島君の襟首を引っ張る。
「三橋困ってんだろ」

「う…」
田島君はそのまま机に突っ伏してくーくー寝息を立て始めたけど、
俺はいつもと違ってなぜか起きたまま。

いいことがあると、幸せだ。
窓の外、青空。
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